自民党総裁選で問われるリーダーシップ 国内外の変化に対応する社会作りを

岩間陽子・政策研究大学院大学教授
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自民党総裁選立候補者討論会を前に記念撮影に応じる(左から)河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=東京都千代田区の日本記者クラブで2021年9月18日、吉田航太撮影
自民党総裁選立候補者討論会を前に記念撮影に応じる(左から)河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=東京都千代田区の日本記者クラブで2021年9月18日、吉田航太撮影

防衛力強化のビジョンを示すべき

 日本をめぐる安全保障環境は非常に厳しい。それに対して各国は激しい動きを見せている。ここ最近だけでも、北朝鮮が巡航ミサイルや弾道ミサイルの発射実験を相次いで実施し、韓国も潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験に成功したと発表した。

 米国は、中国の急速な軍事力強化に対抗するため、パートナー国との連携を強化している。米英豪3カ国は同盟強化の一環として、米国が豪州への原子力潜水艦配備に向けて技術支援する方針を決めた。米国からこれまで原潜のノウハウを供与されたのは英国のみで、これが現在に至る米英の特別な関係の中心にある。

 豪州にも供与するというのは、相当な機密情報を共有することを意味する。今回の発表は、軍事的な意味もさることながら、政治的メッセージの側面が強い。バイデン米政権は、さまざまな枠組みでインド太平洋における同盟の枠組みを強化しているが、日本はそこでやや立ち遅れている印象が否めない。

 安倍晋三前政権は2015年、安全保障法制を整備した。その一つが、緊急時の邦人救出にあたり、相手国の同意などが得られれば自衛隊員の武器使用を可能とした自衛隊法の改正だった。一歩踏み出した方向性は評価する。

 ただ、今回のアフガニスタンでの救出作戦で実際に運用してみて、現地の治安状況が急速に悪化する局面では使いにくいことが露呈した。在独ラムシュタイン空軍基地の活用を含め、アフガン救出作戦で大きな貢献をしたドイツと米国の間では、この作戦を通じて同盟強化が進んだ。

 安倍前政権の集団的自衛権解釈の焦点の一つは、ミサイル防衛(MD)であった。MDは導入時点では十分有用だったが、近年、周辺国のミサイルの数や種類は桁違いに増えた。MDは一発ずつ弾道ミサイルを撃ち落とすシステムで、一度におとりを含む多くのミサイルが撃ち込まれるような事態には対応できないし、弾道ミサイル以外には対応していない。現在は、MDだけでは、周辺国の多様なミサイル脅威に対処するのに不十分である。

 敵基地攻撃能力が必要か、という問いが自民党総裁選で投げかけられているが、「敵基地」の中身があまりに曖昧なので、私はこの用語は使わない。より長距離の打撃力が不可欠なのは疑いがない。どの程度の距離の、どのような打撃力を獲得するのが適当かに関しては、これから議論していかなければならない。打撃力は当然、他のさまざまな能力と組み合わせてでなければ意味がない。目的は抑止力の強化である。相手に対して行動を思いとどまらせるのが抑止力であり、強化する必要がある。抑止力の目的は戦争をすることではなく、戦争を防ぎ、平和を守ることだ。

 世界情勢は急速に変化している。しかし、日本の政治と法整備は追いついていない。専守防衛の原則に縛られて、自国のみで安全保障問題を考える習慣がついてしまった。周辺環境を認識したうえで、どのような能力を持つのかという発想方法を身に付けなければならない。日本が持てる資源の中で、どのような優先順位で日本の安全を考えるのか、総裁選の各候補者はビジョンを示してほしい。

日本の発信力強化を

 ここ数年、日本の発信力が弱った印象がある。安倍前政権が掲げた「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」も一休みしてしまった印象である。もちろん、新型コロナウイルス感染症への対応に追われたうえ、感染対策のため対面での首脳会談などが難しい部分はあっただろう。

 ただ、安倍前政権の後期から、政治が非常に内向きになっていったように感じる。…

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岩間陽子

政策研究大学院大学教授

 京都大学法学部卒、同大学院博士後期課程修了。京都大学博士。在ドイツ日本国大使館専門調査員などを経て、2000年政策研究大学院大学助教授。09年同教授。専門は国際政治学、欧州外交史、安全保障。著書に、「核の一九六八年体制と西ドイツ」(有斐閣、21年)、「ドイツ再軍備」(中央公論社、1993年)など。