裸の王様は引きずり降ろされるのか? 自民党総裁選に寄せて

白井聡・京都精華大学人文学部専任講師
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白井聡氏=山田尚弘撮影
白井聡氏=山田尚弘撮影

 いま行われている自民党総裁選は、日本の政党政治史上有数の身勝手で、したがって醜悪を極めた政争である。周知のように、衆議院総選挙が迫っている。総選挙における敗北、政権喪失の危機におびえての看板の入れ替え――自民党にとっての今回の総裁選の意義はそれに尽きる。

本来ならばコロナ対策の立て直しの時期

 総裁選と新政権の発足に明け暮れる9、10月は、本来ならば、冬に必ず来る次の新型コロナ流行をにらんで、今度こそは医療崩壊を招かぬよう対策の抜本的な立て直しを図るための時間になるはずだった。しかし、この貴重な時間は失われ、ウイルスの変異の仕方次第ではこれまでよりも深刻な感染拡大が引き起こされるであろう。

 あまつさえ、新型コロナ対策を審議するはずの臨時国会開催を憲法を踏みにじって拒絶したうえで、この政争は戦われている。ゆえに、この総裁選はどれほど厳しく見ても厳し過ぎるということはない。

 これほどの犠牲を払いながらそれでもあえていま権力闘争を繰り広げるというのならば、その犠牲に見合った「成果」が総裁選には求められる。現状を見る限り、その「成果」は、2012年の第2次安倍政権発足により成立しその後9年近くにわたって固定化されてきた「体制」の動揺が浮き彫りになってきたことを指摘できる。

「体制」の持続か終焉か

 その体制は「安倍1強体制」とメディアから呼ばれてきたが、このネーミングには一種の戸惑いが込められていた。すなわち、安倍政権が大した成果を出しておらず、不正と腐敗にまみれているにもかかわらず、野党に自公政権を脅かす力がなく、自民党内にも安倍を打倒しうる勢力がないために、盤石の長期政権が続いたことに対する戸惑いである。

 しかし、そんたくも強権も通用しない新型コロナウイルスに遭遇して、「体制」は己の無知と無能をさらけ出した。その結果が、いまから約1年前に起きた安倍晋三氏の政権投げ出しである。そして、安倍退陣から菅義偉政権成立に至るまでの過程は、頭目を失って一瞬揺らいだ「体制」が速やかに自己維持を図り、それに成功した過程であった。「体制」にとって最大の脅威であった石破茂氏を総裁選で惨敗させたところに、その意図と成功が端的に表れていた。

 そしてそれから1年。菅首相もまた、新型コロナによってノックアウトされた。…

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白井聡

京都精華大学人文学部専任講師

 1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。著書に「永続敗戦論――戦後日本の核心」(太田出版)、「未完のレーニン――<力>の思想を読む 」(講談社選書メチエ)、「『物質』の蜂起をめざして――レーニン、<力>の思想」(作品社)、「国体論――菊と星条旗」(集英社新書)など。