
9月24日、ジョー・バイデン米大統領はホワイトハウスに日本、豪州、インド各国の首脳を集め、QUAD(クアッド)首脳会議を主催した。その9日前の15日、同大統領はリモートで参加した英豪両首相とともに3カ国の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設を発表し、豪州はフランスとの潜水艦共同開発計画を一方的に破棄した。
これに対しフランスは予想以上に強く反発し、駐米、駐豪のフランス大使をそれぞれ一時帰国させた。しかし、9月22日にはマクロン仏大統領とバイデン大統領が電話で協議し、関係修復に向けた取り組みを進めることで一致したとも報じられた。これを受けマクロン大統領は、抗議のため召還した駐米大使を米国に戻すことを決めたという。
以上が9月下旬の10日間、日米豪印英仏がインド太平洋の安全保障をめぐり、威信をかけて繰り広げた虚々実々の外交活動の一端だ。当然、日本メディアの関心は15日のAUKUS創設と24日のQUAD首脳会議に集中している。しかし、あまのじゃくの筆者は22日の米仏両大統領の電話協議後に発表された「共同声明」なる米仏共同文書に注目した。
米仏同盟条約が結ばれたのはアメリカ独立戦争中の1778年であり、今もフランスは米国にとって特別の国であるはずだ。その米仏関係が大方の予想以上にきしんでいる。されば今回はAUKUSやQUADの動きよりも、米仏大統領電話協議に焦点を当て、改めてAUKUSの意義を「深読み」してみよう。
毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。
絶妙な玉虫色「外交文書」
9月23日の毎日新聞はニュースサイトでこの米仏首脳電話協議について「信頼関係修復への取り組みで一致」との見出しで次のとおり報じた。
■両首脳は「同盟国間のオープンな議論を欠いた」との認識で一致。10月末には欧州で対面での首脳会談を開き、信頼関係を回復するための具体策を検討する。
■また、米国はフランスが主導して西アフリカ・サヘル地域(サハラ砂漠南縁部)で展開するイスラム過激派の掃討作戦に対し、支援強化を約束した。
■米ホワイトハウスのサキ報道官は、協議の雰囲気は「和やかだった」といい、「米仏の長年にわたる重要な関係を正常に戻すための一歩だ」と強調した。
うーん、結果としてはその通りなのだが、実態は「関係修復」というほど単純ではなさそうだ。そのことは米仏電話協議後の「共同声明」にまとめられた絶妙な玉虫色表現とその行間を読めば、容易に推測できる。しかもくだんの「共同声明」には英語版と仏語版があり、それぞれ微妙にニュアンスが異なっているらしい…
この記事は有料記事です。
残り3318文字(全文4403文字)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。