潮流・深層

負けはあり得ぬのがトランプ流「真実」

古本陽荘・北米総局長
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トランプ前米大統領=米東部ニュージャージー州で2021年7月7日、AP
トランプ前米大統領=米東部ニュージャージー州で2021年7月7日、AP

 昨年11月の米大統領選の「集計作業」はまだ終わっていない。もちろん、連邦議会は合衆国憲法に基づきバイデン大統領(民主党)が勝利したという結果を今年1月に確定している。その後も続いている作業とは、選挙結果に不満を持つ共和党が地方で行っている再集計や監査のことだ。

 西部アリゾナ州で実施された監査の結果は皮肉なことに、バイデン氏の得票は昨年の集計より99票多く、トランプ前大統領(共和党)の得票は261票少なかった。もちろん、この監査結果が発表されてもトランプ氏は負けを認めていない。それどころか、監査により不正があった疑惑が深まったと訴え、むしろ勢いづいているのだ。

信ぴょう性疑われる「サイバー・ニンジャ」監査

 「私たちは選挙結果を覆そうとしているわけではない。これは、選挙の公正性についての監査だ。何か問題があれば、修正するのが我々の仕事だ」。アリゾナ州上院は9月24日、共和党が主導してきた同州マリコパ郡の大統領選結果に関する監査の報告が発表されたことにあわせて公聴会を開き、カレン・ファーン上院議長(共和党)が冒頭あいさつで、監査の意義をそう主張した。対面式とウェブ参加の出席者とのハイブリッド方式で開かれた公聴会は、議員からの質問は受け付けず、プレゼンテーションで説明を受けるだけの場として設定された。

 「大統領選で大規模な不正があった」と訴えてきたトランプ氏が結果を覆そうと画策した州の一つがアリゾナで、焦点を当てたのが人口最多のマリコパ郡だった。大都市の州都フェニックスがあり、州人口の約6割が住む郡だ。約670万ドル(約7億3700万円)もの監査費用は、トランプ氏の支持者や保守系の団体からの寄付で大部分をまかなったという。

 監査は選挙結果を覆すことはなかったが、証言した関係者は一様に、選挙で不正があった「可能性」について次から次へと力説した。監査の事務を委託されたのは、サイバーセキュリティーのコンサルタントを主な業務とする「サイバー・ニンジャ」という民間企業だ。この会社の最高経営責任者(CEO)であるダグ・ローガン氏も証言した。

 ローガン氏は、郵便投票分の2万3344の投票用紙が引っ越したはずの住所に送付されていた▽5047人が二つ以上の郡で投票した可能性がある▽マリコパ郡からすでに退去したはずの2382人が投票所で投票した疑いがある――など数々の疑惑について説明した。ただ、あくまでも疑惑を指摘しただけで、確定的に不正を見つけたという言い方は避けていた。

 そもそも、ローガン氏は「(投票用紙を集計する)機械に不正があったためトランプ氏がアリゾナで敗北した」との陰謀論を流布していた人物で、民主党は「公正な監査は期待できない」と主張し、「はったり監査」などとやゆしていた。地元のマリコパ郡政府もこの監査には協力姿勢を示さなかった。ローガン氏らの指摘に対しても、「事実関係に誤認がある」と反論している。

 アリゾナ州はもともと共和党の地盤と考えられていた。2008年の共和党の大統領候補になった故マケイン上院議員の地元だ。中南米系の人口増加や他州からの人口流入の影響で、民主党支持者が増加。またトランプ氏が、ベトナム戦争で捕虜となったとしてマケイン氏を繰り返し侮辱したことからマケイン支持者の票が共和党からある程度、離反したこともあり、アリゾナはバイデン氏が勝利した。

 ただ、得票数はバイデン氏が167万2143票、トランプ氏が166万1686票と差はわずか1万457票だった。サイバー・ニンジャなどの指摘によると、合計で約5万票に疑惑があるという。共和党側からみれば、どちらが本当に勝ったかは、疑惑が解明されない限り分からないということになる。

フェイクニュースを信じるな

 アリゾナの監査結果の公表前に、主要米メディアは独自に入手した監査報告書について速報し、「アリゾナの選挙結果を覆すことはできなかった」などと伝えた。これに対し、トランプ氏はすぐさま「アリゾナの監査で大きな進展があったというのに、フェイク・ニュース・メディアは『バイデンが再び勝者』などと報じている。信じられないような不正行為の証拠が明らかになったにもかかわらず、だ」と声明で反論した。

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)