宮家邦彦の「公開情報深読み」

岸田首相が強調したかったことは 所信表明演説を「深読み」

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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衆院本会議で所信表明演説をする岸田文雄首相=2021年10月8日、竹内幹撮影
衆院本会議で所信表明演説をする岸田文雄首相=2021年10月8日、竹内幹撮影

 10月8日、第205回国会で岸田文雄首相が所信表明演説を行った。9月29日の自民党総裁選からわずか10日ほどで国会演説を完成させるのは決して容易でない。筆者が外務省に入ったころ、この種の国会演説作りはまず官邸から各省庁に起案依頼があり、各省庁担当者が徹夜で協議した細切れ案文を、秘書官たちが同じく徹夜で取りまとめていたと記憶する。

 こうした「ボトムアップ」手法はある時期から廃止され、まず官邸が全体の素案を作った後に各省庁にそれを提示する「トップダウン」方式に変わった。

 最近では官邸の原案に異を唱えることが難しくなったとの話も聞く。たかが国会演説、されど国会演説である。されば今回は過去3人の首相による国会演説の外交部分を「深読み」してみよう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

各演説の「冒頭発言」

 まずは各演説の冒頭発言を比較する。なお、岸田首相の所信表明演説は2021年10月8日、菅義偉首相(当時)の施政方針演説は2021年1月18日、安倍晋三首相(当時)の施政方針演説は13年2月28日にそれぞれ行われたものだ。以下の内容はすべて筆者の判断と責任で取りまとめた。

 (岸田首相)私は、この国難を、国民の皆さんと共に乗り越え、新しい時代を切り開き、心豊かな日本を次の世代に引き継ぐために、全身全霊をささげる覚悟です。

(菅首相)政権を担って4カ月、直面する困難に立ち向かい、この国を前に進めるために、全力で駆け抜けてまいりました。そうした中で、私が、一貫して追い求めてきたものは、国民の皆さんの「安心」そして「希望」です。

(安倍首相)「強い日本」。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。「一身独立して一国独立する」。私たち自身が、誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自ら運命を切り開こうという意志を持たない限り、私たちの未来は開けません。

 【三者三様だなと思う。外交を得意とした安倍首相が「独立した強い日本」を強調したのに対し、菅首相は「安心と希望」に言及し、岸田首相は現状を「国難」と表現している。】

外交政策の基本方針

 (岸田)三つ目の重点政策は、「国民を守り抜く、外交、安全保障」です。私は、外交、安全保障の要諦は、「信頼」だと確信しています。

 (菅)我が国は、多国間主義を重視し、国際社会が直面する課題に共に取り組む「団結した世界」の実現を目指します。

 (安倍)私の外交は、「戦略的な外交」「普遍的価値を重視する外交」、そして国益を守る「主張する外交」が基本です。傷ついた日本外交を立て直し、世界における確固とした立ち位置を明確にしていきます。

 【これまた三者三様なのだが、岸田首相が「信頼」を、菅首相が「多国間主義」を、安倍首相が「傷ついた日本外交の立て直し」をそれぞれ強調している点が興味深い。】

インド太…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。