数字で示せる野党共闘の効果 2017年衆院選のデータを分析する(2)

菅原琢・政治学者
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2017年衆院選の最後の訴え。雨の中、候補者らの街頭演説に集まる聴衆=豊島区で2017年10月21日午後7時28分、渡部直樹撮影
2017年衆院選の最後の訴え。雨の中、候補者らの街頭演説に集まる聴衆=豊島区で2017年10月21日午後7時28分、渡部直樹撮影

 前回<○勝○敗ではわからない野党共闘の効果>は2017年の野党共闘の効果をグラフにより確認した。具体的には、選挙区ごとの立憲民主党の強さ(比例代表得票率)を基準としたうえで、立憲民主党選挙区候補の得票率が野党各党の選挙区候補の有無により異なるのか、散布図で可視化した。

 その結果、共産党と希望の党については、グラフの上で明確にわかるくらいに、候補者の出馬不出馬が立憲民主党の候補者の得票率に影響しており、野党共闘の効果ないし必要性を明確にすることができた。

 ただし、目での確認だけでは小さな効果を見逃す可能性がある。逆に言うと、共産党や希望の党の候補の、立憲民主党候補の集票への影響は、目でわかるくらいに明確だということになるが、一方で日本維新の会の候補の影響は目では簡単に確認できない。

 そこで今回は、回帰分析という手法を導入し、維新の会も含めた野党の共闘や競合の影響を具体的な数字で示し、論じていきたい。

結果と要因の関係を数式で示す回帰分析

 ごく簡単に回帰分析について説明しておきたい。

 なお、知っている方、面倒な方は飛ばして次に進んでいただいても構わない。ただし、非常に便利な分析手法であり、データ分析の一般化と共にマス・メディアで見かける場面も増えてきているので、何となくでも知っていたほうがよいと思われる。この連載でも、ときどき用いる予定である。

 回帰分析は、分析したい現象を結果と要因で整理した数式に置き換え、その数式に含まれる数字を解釈することで現象への理解を深めたり予測を行ったりする分析手法である。ある要因がどの程度結果に影響を与えたのか考える際に有用である。この数式にどの要素をどのように含めるかという基本的な形は分析者が用意する。これを「モデル」と呼ぶ。

 具体例を示すと、後の表2のモデル1は、立憲民主党の各選挙区の立候補者の得票率を結果とし、立憲民主党の各選挙区の比例代表得票率を要因としている。なお、結果を示す数字の列を「従属変数」(あるいは結果変数、目的変数、被説明変数など)、要因を示す数字の列を「独立変数」(あるいは説明変数、予測変数など)と呼ぶ。

 この結果と要因について、「結果=定数項+係数×要因+誤差」という数式で示される関係を想定し、コンピューターで最も当てはまりの良い式となる定数項と係数の値を求めると、定数項が0.017、係数が1.439になった、ということをこの表は示している。つまり、次のような式である。

 立憲民主党選挙区候補得票率=0.017+1.439×立憲民主党比例代表得票率+誤差

 この式を言葉で表せば、立憲民主党比例代表得票率を1.439倍した値に0.017(1.7%ポイント)を加えれば、だいたい立憲民主党選挙区候補得票率になるということを示す。

 重要なのは係数の値で、この場合、立憲民主党の比例代表得票率が1%ポイント高くなると、立憲民主党の選挙区候補者の得票率は1.439%ポイント高くなるという結果と要因の関係が示されている。比例代表得票率の増分を超えて選挙区候補の得票率が増えるのは、小選挙区では選択肢の少なさや戦略的投票の作用で、有力な候補により多くの票が集まるためと考えられる。

 式の右辺の誤差以外の和を予測値と呼ぶ。回帰分析では、与えたモデルの中で最も結果に近い予測値を生み出す係数や定数項を探し出す。今回は、最も当てはまりの良い式を探す際、式による予測値と実際の値の差(誤差)の2乗の総和が最も小さくなる式を探す最小2乗法(OLS)という最も基本的な方法を用いている。表の「修正R2乗」は、この当てはまりの良さを示す数値である。0.390という値は、だいたい40%くらいこの数式で再現できた、という意味である。

 また、p値は統計的有意性を示す値で、業界標準ではこの値が0.05を下回ると「統計的に有意」と表現する。係数の値が偶然で生じたものではないと主張するためのよりどころとなるものである。

他野党の候補がいなければ立憲民主党候補の得票率は高くなる

 さて、野党共闘の効果を探るために、モデル2の数式には独立変数として共産党、希望の党、維新の会の3党の選挙区立候補者の有無を0と1で表現して投入している。補正R2乗の値は0.854とモデル1に比べてかなり高くなっており、かなり当てはまりのよい、言わば結果の再現度の高い式となっている。

 この当てはまりの良さを図でも確認してみよう。図4の2つの図は、表2の回帰分析の二つのモデルにより、64選挙区の立憲民主党選挙区候補得票率の予測値をもとめ、横軸を立憲民主党比例代表得票率として散布したものである。実際の値の分布も薄く示しているが、右図のモデル2による予測値の分布は実際の値の分布を全体的にカバーするように分布している。視覚的にも、左図のモデル1よりも右図のモデル2は当てはまりがよいことがわかる。

 表2の各党の係数の値(-0.111、-0.100、-0.050)は、他の条件が同じなら、共産党候補者が出馬していれば11.1%ポイント、希望の党の候補者が出馬していれば10.0%ポイント、維新の会の候補者が出馬していれば5.0%ポイント、立憲民主党の選挙区候補者の得票率が比例代表得票率から期待される得票率よりも低くなる傾向があったことを示している。

 仮に共産党候補が出ていれば39%の得票率となる立憲民主党の候補がいたとき、その選挙区から共産党候補が撤退したら50%くらいの得票率になるということである。これはなかなか強力な効果と言える。

 前回のグラフの観察では維新の会の候補の出馬の影響は無いか限定的と述べたが、表2の回帰分析の結果は共産党、希望の党に比較して小幅ながら影響があった可能性を示している。維新の会の候補が出馬していれば、グラフではわかりにくいとはいえ、平均的には5%ポイント程度の得票率の低下を立憲民主党の候補にもたらしていたのである。

 これらの得票率低下幅はあくまで平均的な傾向を示すものだが、他の野党候補の出馬は立憲民主党候補の集票にとってマイナスとなる傾向があったことは確かと言える。回帰分析を用いれば、このように何らかの効果の大きさを数字で示すことができるのである。

立憲民主党と与党の得票率差に他野党候補が与える影響

 ただし、表2…

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菅原琢

政治学者

1976年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授など歴任。専門は政治過程論。著書に「世論の曲解」、「データ分析読解の技術」、「平成史【完全版】」(共著)、「日本は「右傾化」したのか」(共著)など。戦後の衆参両院議員の国会での活動履歴や発言を一覧にしたウェブサイト「国会議員白書」https://kokkai.sugawarataku.net/を運営。