アフリカン・ライフ

貧困国で王室だけがもうかる仕組みとは 「アフリカ最後の絶対王制」の素顔(下)

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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混乱のさなかに警察官に銃で撃たれたマンバさん(右)。現在も寝たきりの生活が続く=2021年9月16日、平野光芳撮影
混乱のさなかに警察官に銃で撃たれたマンバさん(右)。現在も寝たきりの生活が続く=2021年9月16日、平野光芳撮影

 国王ムスワティ3世が富と権力を握り、「アフリカ最後の絶対王制」と言われるアフリカ南部の小国エスワティニ。6月以降盛り上がりを見せる民主化運動を取材するため、私はヨハネスブルク支局の非常勤助手で、本業は俳優でもあるケレ(60)と共に入国した。ケレの知名度にも助けられて懸念していたトラブルは起きず、取材は何とか順調に始まった。

警察に撃たれた少年

 エスワティニの首都ムババーネは人口およそ7万人。山あいにある日本の地方都市のような雰囲気だ。谷の一番深い場所に官庁街や商業施設が建ち並び、そこから斜面をはうように住宅街が広がっている。南アフリカ・ヨハネスブルクからマイカーを運転して国境を越えて来たが、第一印象は「南アフリカと何も変わらない」だった。

 エスワティニの多数派民族スワジ人は、南ア側にも多く暮らしていて、スワジ語は南アフリカの11ある公用語の一つでもある。ケレのように親族が両国にまたがって暮らしているのも当たり前だ。南ア人とエスワティニ人は、まるで東京都民と神奈川県民のように区別が付かない。

 街で目に付くスーパーや銀行、携帯電話会社も大半が南ア資本で、スーパーの品ぞろえや価格もほとんど変わらない。通貨エマランゲニは南アのランドと等価で、ランドの紙幣や硬貨もそのまま通用する。ATM(現金自動受払機)では、南アの銀行口座から外国為替の面倒な手続きなしで現金が引き出せる。エスワティニの輸出入額は6~7割を南アが占めており、経済的には南アに依存している。

 私たちが訪れた頃は、6月下旬の暴動から2カ月以上がたっていて、街は平穏だった。焼き打ちの被害にあった店舗も一部に残り、爪痕は痛々しかったが、多くが営業を再開していた。

 ただ心身に受けた傷は容易には癒えない。「なぜこの子が撃たれなければいけないのか」。ムババーネ郊外ののどかな集落で暮らす中学生、アンディレ・マンバさん(15)の家族は嘆いた。マンバさんは7月1日、近所で略奪被害を受けた商店の後片付けを手伝っていた。そこに警察官がやってきて、「外に出ろ」と促された。マンバさんを略奪犯と誤解したのかもしれない。背後から問答無用で拳銃を発砲した。1発がマンバさんの背中に当たった。

 相手が少年だけに警察官もすぐに誤射だと気付いたようだ。警察は車でマンバさんをムババーネ中心部の病院まで搬送こそしたものの、補償や謝罪の言葉は一切ないという。マンバさんは下半身がまひし、最近までベッドから上半身を起こすことすらできなかった。今も寝たきりの生活で、排せつも自分ではできない。学校にも通えず、学ぶ権利を奪われた。

 発砲は一瞬だが、この子の一生はどうなるのか。マンバさんは15歳だが、決して大柄ではなく、前後左右どこから見ても大人ではない。警察官がなぜ発砲したのか真相は不明だが、政府が市民の人権を軽視していることは明らかだ。

なぜ暴動、略奪が起きたのか

 6月下旬の民主化デモと暴動では市民20人以上が犠牲になり、商業施設などの被害額は推計で総額220億円に上る。暴力はいかなる理由でも許されず、民主化運動のイメージが損なわれたことは否定できない。ただ現地で取材を進めるうちに、商業施設を対象にした暴動や略奪は、国民の深い「怒り」と結びついていることに気付いた。

 そもそも国王はなぜリッチなのか。…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」