選挙と財政 将来世代の利益はどうなるのか

田中秀明・明治大学公共政策大学院教授
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田中秀明氏=宮武祐希撮影
田中秀明氏=宮武祐希撮影

 10月31日、第49回衆院選が投開票される。先般発足した岸田文雄政権にとっては初めて国民の審判を受けるものである一方、野党は政権交代を目指して政権批判を強めている。

 どの党も選挙で勝つために給付増と負担減を掲げる。いつものことではあるが、便益だけを我々現世代が享受する一方、その負担を選挙権のない子どもたちやこれから生まれる将来世代に押し付けてもよいのだろうか。諸外国の事例も紹介しながら、選挙と財政の問題を考える。

「負担」のない各党の選挙公約

 まず与党・自民党である。岸田首相は、去る10月8日の所信表明演説で、「新しい資本主義の実現」を掲げ、「分配なくして次の成長なし」と成長より分配を強調した。これまでの成長重視のアベノミクスの軌道修正である。

 この岸田首相の方針を踏まえ、自民党としての衆院選の公約が発表された。具体的には、中小企業の支援、非正規雇用者・女性・子育て世代・学生などコロナで困っている者への経済的支援、児童手当の強化、看護師・介護士・保育士等の賃金引き上げ、外食産業への支援などなど、無数の政策が並ぶが、負担についての記述は全くない。

 岸田首相が発言していた金融所得課税の強化についての記述は消え、「経済成長を阻害しない安定的な税収基盤の構築の観点から、税制の見直しを進めます」と書かれているだけであり、これが何を意味するのかわからない。他党との違いは、税負担減についての政策がないことと給付や支出増について具体的な数字が示されていないことである。

 公明党は、0~18歳の子ども全てに所得制限なしで10万円を一律給付、生活困窮者支援のための住居確保給付金などの拡充や住宅手当の創設、コロナ対策の事業再構築補助金の大幅な拡充、新たなマイナポイントとして数万円を一律給付、新たなGoToキャンペーンの実施、出産育児一時金(現行原則42万円)の50万円への増額など、具体的な金額を織り込んだ給付拡充策がずらりと並ぶ。

 立憲民主党は、児童手当の所得制限撤廃と対象拡大、出産費用の無償化、高校授業料の無償化に係る所得制限撤廃などの歳出増に加えて、年収1000万円程度以下の人の所得税の免除(所得税納税者の8割超が対象)や消費税の時限的な5%への引き下げ、法人税への累進税率の導入や金融所得課税の強化なども盛り込んでいる。

 共産党は、1人10万円の給付金の支給(年収1000万円未満程度を対象)、持続化給付金・家賃支援給付金の再支給、介護・福祉・保育職員の賃金の引き上げ、最低保障年金制度の導入、介護保険料・利用料の減免や保険給付の拡充、国民健康保険料(税)の引き下げ、生活保護制度の拡充、最低賃金の1500円への引き上げ、高等教育・高校教育の無償化、消費税率の5%への引き下げ、法人税率の28%への引き上げ、所得税・住民税の最高税率の65%への引き上げ、富裕税の導入などを掲げる。他党と異なり、一連の増税と国防費などの歳出削減(約5兆円)で19兆円を調達し、給付などの増を賄うとしている。

 日本維新の会は、全ての教育の無償化などの給付増の政策もあるが、消費税5%への臨時的な引き下げ、所得税・法人税の減税など負担減と国会議員の削減や民営化など行政改革が特徴的である。

 国民民主党は、一律の10万円給付(低所得者は20万円)、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者への固定費の補助、児童手当の一律月1.5万円給付、高等教育の授業料免除、消費税減税(経済が回復するまで5%に引き下げ)、給付付き税額控除の導入、そして、富裕層への課税強化、教育国債の50兆円発行(10年間で)などを盛り込む。

「選挙が財政赤字の原因」

 いずれにせよ、ほとんどが給付増・負担減だ。こうした現象は各国でも大なり小なり見られるものであり、選挙が財政赤字の原因であると専門家は指摘する。…

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田中秀明

明治大学公共政策大学院教授

 1960年生まれ。85年大蔵省(現財務省)入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官などを経て、2012年より現職。専門は財政・ガバナンス論。著書に「官僚たちの冬 霞が関復活の処方箋」など。