不公平な金融所得課税 総合課税に一本化すべきだ

森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授
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森永卓郎氏=武市公孝撮影
森永卓郎氏=武市公孝撮影

金融所得課税強化の先送り

 「新自由主義と決別し、成長と分配が両立する新しい資本主義に転換する」。岸田文雄首相が打ち出した政権運営に早くも暗雲が立ち込めた。総裁選のときから主張していた金融所得課税強化を、「当面は触らない」と先送りしてしまったからだ。

 私は、いまの日本の金融所得課税は不公正税制の象徴だと考えている。その見直しは、財政改革の大きな一歩になる。図表1は、合計所得の階級別にみた所得税の負担率だ。

 所得税は、累進課税となっているから、本来、所得が増えると負担率が上がって当然なのだが、現実には5000万円超1億円以下の所得層の27.9%をピークに、負担率が下がっていく。100億円を超える合計所得を稼いでも、所得税の負担率は16.2%にとどまっているのだ。

 一般に「1億円の壁」と呼ばれているこの現象は、なぜ起きるのか。最も大きな原因は、金融所得に適用されている分離課税および定率課税だ。株式の売却益や配当などの金融所得は、他の所得と分離されて所得税が課税される。しかも税率は、所得税15%、住民税5%の定率で、どんなに稼いでも税率は変わらない。所得階級が高いほど、所得に占める金融所得の割合が高くなるから、年収が高いほど、金融所得課税の15%という所得税負担率に実際の負担率が近づいていくのだ。

 年収1億円よりも、年収100億円のほうが所得税の負担率が小さいという事実は、誰がどう考えてもおかしいだろう。一般的に税金は、額に汗して稼いで得た所得に対しては軽く、あぶく銭には重くというのが大原則だ。ところが日本では、その正反対のことが行われているのだ。しかし、そんなことを論じても、「それは金持ちのなかだけの話だ」と片付けられてしまうかもしれない。しかし、社会保険料の負担を考えると、もっと理不尽なことが起きているのだ。

税・社会保険料負担の理不尽

 我々は、所得税のほかに住民税と社会保険料を納めている。だから、所得税だけでなく、住民税や社会保険料の負担も含めて負担率を論じなければならない。

 住民税は、給与所得の場合、所得水準にかかわらず課税所得の10%になっている。ところが、金融所得の場合は5%と、給与所得の半分しか、かからないのだ。

 一方、社会保険料は、厚生年金保険料が年収の18.3%、健康保険料が9.84%(東京都、協会けんぽの場合)、雇用保険料が0.9%の合計29%だ。このうち約半分を勤労者個人が、残りを雇い主の企業が支払っているが、それは誰が支払いの担当となっているかというだけの話で、負担という意味では同じことなので、ここでは全体を負担とみなす。

 社会保険料制度の大きな問題は、厚生年金と健康保険に負担上限があるということだ。具体的には、厚生年金の場合、月給65万円までは保険料がかかるが、それを超える給与を得ても、保険料は一切増えない。月給が1000万円でも、1億円でも、保険料は月給65万円の人と同じなのだ。健康保険も構造は同じで、月給が139万円を超えると、超えた部分には保険料がかからない。圧倒的に高額所得者に有利な制度になっているのだ。

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森永卓郎

経済アナリスト、独協大学教授

1957年生まれ。日本専売公社、経済企画庁、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て独協大経済学部教授。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済。コメンテーターとしてテレビ番組に多数出演。著書に「年収300万円時代を生き抜く経済学」(光文社)など。