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コロナ隔離費用は「自己負担」とされた国費留学生たちの窮状

大治朋子・編集委員(専門記者)
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新型コロナウイルスのワクチン接種を受けるベトナム人留学生=大阪市浪速区のYOLO JAPANで2021年9月12日、北村隆夫撮影
新型コロナウイルスのワクチン接種を受けるベトナム人留学生=大阪市浪速区のYOLO JAPANで2021年9月12日、北村隆夫撮影

 政府が国費留学生に対し、新型コロナウイルス感染予防対策のための2週間の隔離を求めながらその費用を支給せず、資金繰りのめどが立たない一部留学生が渡日を断念している。

 政府は、昨年度は費用を公費で負担していた。狭き門を突破してようやく合格した学生の一部は、念願の留学を断念せざるをえない状況に追い込まれている。

「21年2月1日以降は支給外」

 取材のきっかけは、ある学生から寄せられた情報だった。

 「日本政府は、今年は入国時の隔離費用を出さない、と聞きました。隔離費用を自分で出せない場合、留学そのものをあきらめざるを得なくなります。政府として支援してほしいです」

 この学生によると、費用が自己負担になると知らされたのは来日の数カ月前。昨年度日本に留学した「先輩」から、隔離費用は公費でまかなわれると聞いていただけに衝撃を受けたという。

 なぜ今年は「自己負担」なのか。

 文部科学省の国費留学担当窓口によると、昨年度の留学生のうち4月に渡日予定だった学生たちは日本国内での感染拡大により入国できなかった。しかしその後状況が改善し、8月下旬から順次、2週間の隔離措置を条件として入国を認めた。この変更が急だったこともあり、政府として1日7800円を上限に2週間分の隔離費用を国費留学生計2005人に支給したという。

 しかし文科省はその後、国費留学生を受け入れる大学への通知(2020年11月30日付)で、隔離費用は「(21年)1月31日までは(支給)対象」だが「2月1日以降に日本に到着した場合は支給外」と伝えた。

 これはつまり、昨年度受け入れ予定の学生のうち、日本での感染拡大への懸念などから来日を遅らせていた学生については21年1月31日までに入国した場合は隔離費用を払うが、それ以降は、今年度(21年度)の学生も含めすべて支援の対象外とする、という意味だという。

文科省は「昨年度が例外」

 支給をやめた理由について文科省は「そもそも昨年度が(コロナ禍に伴う)例外であり、国費留学生には学費とは別に生活費を出しているので、その中から支払えるはず」とのことだった。例えば修士・博士号を目指す学生には月額14万円余りが支給され、隔離期間中はホテル代以外に滞在費はかからないのだからそこから捻出できる、というのだ。しかしよくよく聞いてみると、その約14万円が支給されるのは入国から約1カ月後だという。

 平時なら、留学生は来日するとすぐに学内の寮などに入り、その寮費などの支払いは政府からの生活費支給が出た後で間に合う。このため渡日にあたっては、当面の食費などだけを持参すればよい。だが生活費が支給されていない段階で、2週間の隔離措置をホテルで受けるとなると、日本で使えるクレジットカードでも持っていない限りはその分の現金(ホテル代は昨年度支給額の上限1日7800円の2週間分とすると総額10万9200円)が手持ちとして必要になる。

狭き門を突破しても

 しかもそれを知らされたのは渡日の数カ月前で、学生たちの困惑は大きい。国費留学は特に優秀な学生だけが得られるチャンスで、合格した学生たちは、留学資金の自己負担を最小限に抑えられるメリットを期待していたからだ。

 ちなみに20年5月時点で日本に滞在する外国人留学生は計約28万人。このうち8761人が国費留学生で、いかに「狭き門」かがうかがえる。特にその出身地で目立つのがタイやバングラデシュ、インドネシアなどのアジア諸国だ。仮に隔離のためのホテル代2週間分を先の約10万9200円とすると、その額はタイの大卒平均初任給の約1.5倍、バングラデシュの約2倍、インドネシアの約3倍にものぼる。

支援する大学も

 こうして見ると、せめて最初の生活費の支給を前倒しするか、政府指定のホテルに滞在してもらい、宿泊費は翌月以降の支払いも認めるなど工夫はできなかったのだろうか、という疑問がわく。

 ただ仮にそうなったとしても、あくまでも学生の自己負担とすると、ホテル代は先の通り10万円以上はかかると見られ、月額14万円の生活費から差し引けば4万円しか残らない。文科省の担当窓口にこの点について尋ねたが明確な返答はなかった。ただ「大学によっては支援をしているかもしれない」という。

 そこで特に国費留学生を多数受け入れている一部大学を任意に選んで対応を聞いた。

 まず都内の某有名私立大は、「特別な支援は予定していない」と回答。ただ「一部学生からは、隔離費用に関する相談」が寄せられているという。別の有名私立大も「特に対応はしていない」が、大学には「お金がない」「必要経費を分割払いさせてほしい」「お金を借りたい」「ワクチン接種完了者には待機期間の短縮をしてほしい」などの声が寄せられているという。

 一方、多数の留学生受け入れで知られる立命館アジア太平洋大学(APU・大分県別府市)は次のように回答し…

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大治朋子

編集委員(専門記者)

 1989年入社。サンデー毎日、社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員などを経て現職。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員。2017年から2年間休職しイスラエル・ヘルツェリア(IDC)学際研究所大学院(テロ対策&国土安全保障論、サイバーセキュリティ専攻)修了、シンクタンク「国際テロリズム研究所」(ICT)研修生。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)修了。防衛庁(当時)による個人情報不正収集・使用に関する報道で02、03年度新聞協会賞受賞。ボーン・上田記念国際記者賞など受賞。単著に「勝てないアメリカー『対テロ戦争』の日常」(岩波新書)、「アメリカ・メディア・ウォーズジャーナリズムの現在地」(講談社現代新書)など。