繰り返さない社会のために1票を、入管女性死亡事件

安田菜津紀・フォトジャーナリスト
安田菜津紀さん
安田菜津紀さん

 10月12日、私はスリランカ滞在中だった。3月6日に名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)収容中に亡くなったウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)のご遺族にお世話になり、ウィシュマさんがどんな人に囲まれ、何を大切にしてきたのか、その生きた軌跡をたどる取材を進めていた。この日の参院本会議で、就任したばかりの岸田文雄首相に、立憲民主党の福山哲郎氏がウィシュマさんのビデオ開示について質問したことが、ご遺族とも話題となった。

 ウィシュマさんが最後に収容されていた居室のビデオが、約2週間分残っているとされているが、8月12日、入管庁側はその映像をおそよ2時間分に縮め、遺族のみに開示した。つまり遺族は、代理人の弁護士たちからは切り離され、ウィシュマさんの死の責任があるはずの法務省、入管庁側の職員に囲まれながら、彼女が苦しみ亡くなっていく様子を見なければならなかったのだ。1時間ほどで遺族は限界となり、視聴を中断、外に出てきた。妹で次女のワユミさんはその後、フラッシュバックに苦しんだ。三女のポールニマさんも、眠れない夜が続いたという。

ビデオ開示拒否、保安上の理由とは

 9月24日、弁護団は裁判所の手続きである「証拠保全」のために、裁判官、ポールニマさんと共に名古屋入管に踏み込んだ。…

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フォトジャーナリスト

 1987年生まれ。認定NPO法人Dialogue for People 副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。著書に「故郷の味は海を越えて―『難民』として日本に生きる―」(ポプラ社、19年)、「写真で伝える仕事―世界の子どもたちと向き合って―」(日本写真企画、17年)、「君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―」(新潮社、16年)、「それでも、海へ―陸前高田に生きる―」(ポプラ社、16年)など。