総選挙から見えたこと 今後の政治に注文する

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
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田中均氏=藤井達也撮影
田中均氏=藤井達也撮影

 総選挙は自民党が半数を大きく超え、単独で絶対安定多数の261議席に達し勝利した。

 筆者は自民党1強体制が権力の集中の弊害を生んでいるので、与野党の勢力が拮抗(きっこう)し、権力の乱用をチェックする体制が好ましいと述べてきたが、選挙結果だけから見れば、願望はむなしく潰(つい)えたかに見える。

 自民党1強や官邸1強体制が好ましくない理由はこれまで9年の長期政権が、「3S政治」、すなわち説明せず、説得せず、結果責任をとらず、民主主義の基本原則をおろそかにしてきたと考えるからだ。

 ただ、選挙前と大きくは変わらない権力集中体制であったとしても、指導者が明確な認識を持てば3S政治の弊害は避けられる。今回の選挙を通じて見えてきた諸課題を改めて整理し、今後の政治への注文をしたいと思う。

国民の政治参加を活発にしなければならない

 残念なことに今回の総選挙の投票率は55.9%と戦後3番目に低く、10代の投票率は僅か43%にとどまった。今年9月に行われたドイツの連邦議員選挙の投票率が76.6%、カナダの総選挙は62.3%、ノルウェーの総選挙は77.2%であったことに比べると、あまりに低い。

 これら3カ国においては、いずれも第1党は過半数にはほど遠く、与野党が拮抗する結果となっている。これら諸国の総選挙における最大の関心はコロナ対応の経済回復策と並び、気候変動問題だった。

 やはりコロナ感染拡大や水害・干ばつなど気候変動が人々の生活を脅かしていることが国民の選挙に対する関心を高める結果となっているのだろう。同時にドイツなどでは日ごろから政府やNGOによる住民の政治教育が活発であることも高い投票率に結びついている。

野党は猛省を

 日本ではコロナ感染が急速に減ってきたこともあり、国民の政治に対する関心が格段に低い。特に野党のアプローチに猛省が促されてしかるべきだ。

 野党は個別の問題についての政府批判には躍起となるが、野党自身が日本をトータルにどうしていきたいのか、与党と対比できるビジョンを提起しているわけではない。

 もちろん、安倍・菅政権下での3S政治に対する批判や五輪の強行開催、コロナ感染防止の後手後手対策についての批判を行うのは野党として当然のことであるが、積極的に争点を明確化し、自分たちのビジョンを示すことは出来なかった。

 国民が政権の受け皿としての野党に魅力を感じなかったことが政治への関心を低下させ、野党第1党の立憲民主党が議席を減らした最大の理由だろうし、与党を勝利させた最大の理由でもあったのだろう。野党間の連携を考える前に、自分たちのアイデンティティーをはっきりさせ、国民にとって魅力的な政党に脱皮しないと来年夏の参院選でも同じ運命をたどることになるのだろう。

 若年層の投票率が低く、かつ若い人々の投票が自民党に向かうのも顕著な傾向だ。今日インターネット世代はより保守的となっているということか。政党への偏りなく、今日の課題が何であるのか政治教育を充実させていく必要があるのだと思う。

官邸1強体制や自民党の長老支配の弊害

 岸田文雄首相は自民党の中ではリベラルな派閥である宏池会を主宰し、自ら「聞く力」を持つと強調する政治家だ。官邸がかなり強権的に物事を進め説明も説得も行われず、結果責任も曖昧になるような統治の仕方は改めてもらいたいと思う。

 特に官邸権力を背景に「官邸官僚」と言われる人たちが事実上政策を決めるような体制は透明性に欠け、責任体制を不明確にするもので好ましくない。さらに内閣人事局が幹部官僚の人事を差配するにあたっては明確な人事基準を示すべきだと思う。

 官邸への忠誠度で人事をするような気配に官僚たちは官邸への忖度(そんたく)を強める。過去、かなり長期にわたり官僚がその専門性の故に「省益」だけのために行動しているのではないかといった批判を生んだし、官僚も自省すべきだ。

 そして政治によるしっかりとした監督がなければならないことは事実であるが、官僚の専門性を政策形成に生かすのが政治の役割であり、官邸の意向に沿う事だけに汲々(きゅうきゅう)として意見具申も怠るような体制は一掃すべきだ。

 自民党長老による支配体制も徐々に崩れつつあるように見受けられる。…

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田中均

日本総合研究所国際戦略研究所理事長

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。2021年3月よりTwitter開始(@TanakaDiplomat)。毎日リアルタイムで発信中。YouTubeチャンネル(@田中均の国際政治塾)。