迷走する現金給付 ワーキングプアの労働者を排除するな

稲葉剛・立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授
第2次岸田内閣が発足し会見に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2021年11月10日(代表撮影)
第2次岸田内閣が発足し会見に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2021年11月10日(代表撮影)

 現金給付をめぐる議論が迷走している。

 自民、公明両党は、11月9~10日の協議において、(1)18歳以下の子どもを対象に年内に現金5万円、来春に5万円分のクーポンを支給すること(年収960万円を超える世帯を除く)、(2)18歳以下への給付とは別に、住民税非課税世帯に一律10万円を給付すること、(3)マイナンバーカード保有者に最大2万円分のポイントを付与することで合意した。

 また、岸田文雄首相は10日の記者会見で「コロナ禍で厳しい経済状況にある学生に対しても、修学を継続するための10万円の緊急給付金を支給します」と表明した。「18歳以下」への支給という方針に対して、「19歳以上の大学生や専門学校生もアルバイトが減少して困窮している」という声が出たことに配慮したものだと思われるが、これが上記の(1)(2)の施策とどのような整合性を取るのかは、まだ明らかになっていない。

狭すぎる現金給付の対象

 先の衆院選で、公明党は「高校3年生の年代まで1人一律10万円相当を給付する」という公約を掲げていたが、連立を組む自民党の公約には「非正規雇用者・女性・子育て世帯・学生をはじめ、コロナでお困りの皆様への経済的支援を行います」としか書かれていなかった。「経済的支援」の中身や対象をあえて曖昧にしながら、「岸田氏が総裁になり、自民党が『分配』重視へとシフトした」というムードを作り出す、というのが自民の選挙戦略だったのであろう。

 私が今回の自公合意で最も問題だと考えているのは、生活困窮者支援として想定されている(2)の現金給付の対象が住民税非課税世帯に限定されていることだ。

 東京23区に暮らす単身世帯の場合、年収が100万円以下にならないと、住民税は非課税にならない。…

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立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 1969年生まれ。一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。14年まで理事長を務める。14年、つくろい東京ファンドを設立。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『コロナ禍の東京を駆ける』(共編著、岩波書店)など。