Social Good Opinion

2拠点生活というライフスタイルから見えた 都市と地方の分断

井上美羽・フリーライター
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井上美羽さん=本人提供
井上美羽さん=本人提供

 現在のフードシステムには、課題がたくさんあります。昨今日本でも問題視され、多くの企業が解決の手立てを編み出しているフードロスはもちろんのこと、海洋資源の枯渇、農薬化学肥料、児童労働、過剰包装、生産者の高齢化……。一見独立して存在するように見えるさまざまな問題の根っこにあるのは「気候変動・温暖化」であり、最終的に行き着くのは「食糧危機」です。

 一つ一つの問題を言語化してみるととても壮大な話になり、どうしても普段の自分たちの生活というミクロな視点から結びつけて考えることはできない方がほとんどでしょう。

 しかし、現在マクロで起きている気候変動、地球温暖化が、私たちの生活に影響を及ぼし始めているのは間違いがありません。米国や欧州の軍事専門家らでつくる研究グループがまとめた「気候と安全保障に関する世界報告書2021」によると、2030年代には温暖化による陸上や海の生態系破壊が最も大きな脅威になり、健康影響や水資源に関するリスクの増大にもつながるという結果もあがってきています。<地球温暖化に安全保障リスク>https://mainichi.jp/articles/20210713/ddm/013/040/070000c

 筆者自身、学生時代から、自分なりに環境問題に向き合い、グリーンウオッシュな取り組みを批判したり、プラスチックを全否定したりしたこともありましたが、今は何かを否定するのではなく、既存のシステムに対して疑問符を持ちながら、現状を知ることが大切なのだと考えています。

 そして、その切り口として、私は「食」と「料理人」にフォーカスして生きています。

地方と都会の2拠点生活をして気づいた食の情報格差

 現在私は埼玉と、愛媛県で一番小さな町、松野町との2拠点生活を行いながら、食とサステナビリティーをテーマに、ライターとして記事を執筆し発信しています。

 都市と地方を行き来し、東京都内のレストランシェフや地方の生産者の取材をする中で、国内においても、現状のフードシステムにおける情報格差があることに気がつきました。

 都市では、スーパーで「きれいな」野菜を不自由なく買うことができます。しかしその野菜はどこで誰がどのような農法で作った野菜なのかを知ることはできません。裏側ではどれだけの量の規格外品が出ているのかという情報も、ブラックボックスの中です。

 実際に生産者のもとで選別作業をやってみると、スーパーで見るような真っすぐで色鮮やかな野菜や果物は、ほんの一部しかありません。ほとんどはB級品として安く買い取られるか、商品価値がつかないC級品と判断され、土に埋められます。

 また、地方で昔ながらの手間ひまをかけた生活を続けているおばあちゃんの体と頭の中には、循環型社会のヒントがたくさん詰まっていますが、こうした情報にはネット上ではアクセスできません。

 一方、地方の高齢者は、有機食材の需要が高まっている現在の国際的風潮を知りません。だからこそ、今まで通り長年かけて培ったノウハウで、農薬や化学肥料ありきの慣行農法を続けるのです。

 ここでは、スーパーで食材を買うなと言っているわけでも、農薬がダメと言っているわけでもありません。どちらかの情報しかない中で、どちらかの選択に固執すべきではないと思うのです。

大事に育てた稲だからこそ、一粒でも拾ってあげたい。落ち穂拾いをする米農家の様子=筆者撮影
大事に育てた稲だからこそ、一粒でも拾ってあげたい。落ち穂拾いをする米農家の様子=筆者撮影

解決のヒントは料理人にあり

 上記で述べた課題をフードシステムの問題として捉えると、生産から消費までのフードサプライチェーンが長くなり、地方と都市の分断、つまり生産者と食べ手の分断が起きていることに課題があると考えています。

 私が今、2拠点生活というライフスタイルを続ける理由の一つに、両方の情報を常にアップデートし続けたいという思いがあります。そして、うまく交差できそうなところを探し、自分自身が分断を紡ぐかけ橋となって、情報の発信をしています。

 2拠点生活や多拠点生活というライフスタイルを選択する人は今後増えていくと思いますが、全員がこのような生活を送ることは難しいでしょう。

 だからこそ、「料理人」の声を聞くべきだと思います。料理人やレストランは、メディアの役割を担っており、彼らは、料理や空間、サービスを通じて生産者のありのままの思いをお皿に乗せて食べ手に届けています。

 全国の各拠点で、料理人は何らかの強い意志を持って包丁を持ち、厨房(ちゅうぼう)に立っているのです。

伝えるという仕事

 多様性あふれるこの社会では、それぞれの立場で、あるべき役割が与えられていると思います。土や自然に向き合いながら日本の食を支えている生産者、食材に付加価値をつけて生産者の思いを食べ手に届ける料理人、活動家となって気候変動の危険性を世の中に訴えるZ世代、政治や社会の第一線でインフラやシステムの改革に挑戦する政治家や起業家。

 私は、ライターという肩書の下、この1年間だけでもさまざまな方のお話を伺う機会をいただきました。その中で明確になったことは、こうした思いのある人々の取り組みや彼らの言葉を、世の中に発信し続ける役目が必要だということ、そしてその役目を自分が担いたいということでした。

畑でとれたてのほうれん草をいただく=筆者提供
畑でとれたてのほうれん草をいただく=筆者提供

 まだまだ駆け出しの未熟なライターですが、自分が誰の声を、どのように、誰に向けて発信するかで、この社会、自分の周りの環境を少しでも良い方向に変えることができるのではないかと信じてこれからも言葉を紡ぎ続けたいと思います。

 「Social Good Opinion」の<インスタグラムアカウント>を開設しました。そちらも合わせてご覧ください。

井上美羽

フリーライター

 埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。学生時代からフードロスや環境問題に関心を持ち、オランダ留学を経て、環境とビジネスの両立の可能性を感じる。日本サステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人について発信している。