宮家邦彦の「公開情報深読み」

中国女子プロテニス選手の「告白」を「深読み」

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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モニター画面に映る中国のテニス女子選手、彭帥さんと会話を交わすIOCのトーマス・バッハ会長=ⒸIOC/Greg Martin
モニター画面に映る中国のテニス女子選手、彭帥さんと会話を交わすIOCのトーマス・バッハ会長=ⒸIOC/Greg Martin

 11月22日付毎日新聞は共同通信を引用し、「中国の元副首相との不倫を告白した後、安否が懸念されていた著名なテニス選手、彭帥さん(35)が21日、北京市で行われたテニスイベントに姿を見せた」が、中国側は人権問題を理由とする来年の北京冬季五輪の外交ボイコットなどを警戒し「積極的に写真を公開したとみられる」などと報じた。

 本コラムでは通常、文化・スポーツものやスキャンダルは取り上げないのだが、今回ばかりは例外だ。習近平政権発足当初の共産党政治局常務委員の一人との長年の関係を、全英、全仏テニスの女子ダブルス優勝者がウェブ上で告白するとは尋常ではない。今回は公開直後に削除された投稿文を中心に中国の「公開情報戦」の実態を深読みする。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

告白文の真偽

 まずは騒ぎの発端となった11月2日の「告白」から始めよう。中国語漢字で1600字以上もある長文で、当然原文は削除されているが、なぜか、というか当然、一部中華系メディアは全文を掲載している。ここでは最も興味深い点に絞ってご紹介しよう。なお、全文日訳は近藤大介氏がJBPressに掲載しているので、興味のある方はご一読願いたい。

 ■私は良い女の子ではない、悪い悪い女の子だ。(我不是一個好女孩,很壞很壞的女孩)

 ■あなたは私を自分の部屋に引き入れ、十数年前の天津の時と同様、私と性的関係を結んだ。(把我帶進你家的房間,和十多年前在天津時一樣,要和我發生性關係)

 ■7年前私たちは性的関係を持ったが、その後あなたは共産党常務委員に昇進して北京へ行き私との連絡を絶った。(七年前我們發生過一次性關係,然後你升常委去北京就再沒聯繋過我)

 ■それなのに、なぜ再び私を探し、私を家に連れて行き、私に関係を迫ったのか?(為何還要回來找我,帶我去你家逼我和發生關係?)

 ■感情とは複雑で、うまく言えない。その日から私はあなたへの愛を再開した……あなたはとてもとても良い人だった。(感情這東西很複雜,說不清,從那日後我再次打開了對你的愛……你是一個很好很好的人)

 ■私は小さい頃から家を離れ、内心では極度に愛情に飢えていた……なぜこんな(テニスの)世界に来てしまったのだろうと自身を恨んでいた。(自小離家早,內心極度缺愛……我恨我自己,恨我為什麼要來到這個世界)

 ■今起きていること一切が自業自得なのだ。終始一貫、あなたは私に二人の関係一切を秘匿させた。(這一切我活該,自取其辱,從頭到尾你都是一直讓我保密和你的一切關係)

 ■そう、私自身以外に証拠はない。録音も録画もない。ただねじ曲げられた私の真実の経歴があるだけだ。(是的,除我以外我沒留下證據證明,沒有録音、沒有録像、只有被扭曲的我的真實經歷)

 ■あなたは恐れないと言ったが、私はたとえ石にぶち当たる卵や、火に飛び入る蛾(が)となっても、自滅する覚悟であなたとの事実を明かす。(你說過你不怕,但即使是以卵擊石、飛蛾撲火自取滅亡的我,也會說出和你的事實)

フェイクの可能性

 中国側はこの投稿をフェイクだという。確かに、彭帥さん自身が語るまで、投稿の真偽は不明だろう。だが、この文章の行間からは、揺れ動く女性の心の葛藤が読み取れる。しかも、この二人は歴史、経済、哲学を語り、将棋を指し、歌を歌い、卓球、ビリヤード、テニスを楽しみ、性格も一致していた、とある。これがフェイクだとは到底思…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。