Social Good Opinion

フィリピンで目の当たりにした「国ガチャ」による理不尽を1ミリでも減らしたい

大野雛子・Island Honey Works(株)代表
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大野雛子さん=浅原由奈さん撮影
大野雛子さん=浅原由奈さん撮影

 「親ガチャ」という言葉が話題になりました。親ガチャとはどんな親のもとで生まれてくるかで自分の人生が決まってしまう、という俗語です。<キーワード 「親ガチャ」という呪縛=中森明夫

 私は他にもたくさんのガチャが存在していると感じています。そのひとつが「国ガチャ」です。

 現在、地球上の人口の約8割が発展途上国に生まれた人です。簡単に世界の総人口と日本の人口で計算をしただけになりますが、日本に生まれる確率は1.5%。発展途上国の中にも裕福に暮らす人がいますし、日本においても相対的貧困や教育格差のゆがみの渦中に置かれる方もいるので、雑な計算ではありますが、戦争をしない、治安の良い国に生まれ、衣食住を得ることができて、教育や医療にリーチできるということは0に近い奇跡の確率の出来事です。

 逆に、地球上にはガチャによって理不尽を被る人々が多くいます。不均衡や理不尽を被る人を少しでも減らしたいと思い、私は現在フィリピンという国に雇用を創る事業を行う会社「Island Honey Works」をスタートさせました。

人生を選べないフィリピンの子どもを目の前にして

 滑り止めの大学に進学し、もんもんとしていた大学1年生の夏にフィリピンを訪れました。その中で足を運んだ孤児院で9歳の女の子が「キャビンアテンダントになりたいけど、学校に進学できないので他の働き口を探して働きたい」と言う姿を目の当たりにしました。9歳にして生まれた環境によって人生を選べないことなんかあっちゃいけないと思いました。

墓地で暮らす人々がいた=筆者提供
墓地で暮らす人々がいた=筆者提供

 目の前にいる小さな子どもの状況を1ミリも良くする力をその瞬間に持ち合わせていない自分にふがいなさを感じると同時に、大学に進学させてもらいながら文句を言う自分に恥ずかしさと殴りたい気持ちが生まれました。

 元々やりたいことなんてなくて、流されるように生きようと思っていました。だったら、心が震え、何もできない自分に絶望した目の前の「フィリピンの貧困」に対して、自分の人生を使ってみようと決意したのです。

貧困とは選択肢を持てないこと

 それから長期休みの度にフィリピンを訪れ、現地の人々と共に生活をさせてもらいました。

 一時は、みんな幸せそうで、私が勝手に貧困が存在していると相対的に思っているだけなのではないかと思うこともありました。しかし、長く一緒に過ごすうちに「学校に行かせたい」「病気になった」「将来の夢がある」といった人生の岐路に立った時に、貧困ゆえに選択が一切できないことがわかりました。

一緒に生活する中でお母さんのような存在になった=筆者提供
一緒に生活する中でお母さんのような存在になった=筆者提供

 貧困とは「選択肢を持てないこと」で、貧困をなくすとは、「生まれた環境によってマイナスになったことを0に戻すこと」なのだと私は思っています。

 いろいろな貧困解決の手段を探る中でソーシャルビジネスという方法に出合いました。ビジネスを通して社会課題を解決することです。フィリピンの貧困にとっては最も持続的で、本質的な手段だと思い、新卒でフィリピン現地の貧困や環境問題を解決することを目的とした旅行会社に就職しました。

コロナで体感した「国ガチャ」による不平等

 本質的な課題解決と向き合えていると感じていた頃、新型コロナウイルスの脅威がフィリピンを襲い、突然のロックダウンが通告されました。旅行会社勤務だった私は突然仕事を失い、生活が危ぶまれました。

ロックダウンし、人通りがなくなったマニラ=筆者撮影
ロックダウンし、人通りがなくなったマニラ=筆者撮影

 最低限の生活を成り立たせるために、「フィリピンからできる仕事をください」とお願いし、どんなに安い仕事でも受けました。安い仕事といっても、日本の最低時給は保証されており、外出のできないフィリピンで生活するには十分でした。数カ月後には政府からの10万円の給付金もありました。

 自分の生活は救われていく一方で、国全体が困窮していくフィリピンの空気を体感しました。連日、フィリピン人の友人からの「お金を貸してくれ」というメッセージが届くたびにやるせない気持ちになり、テレビでは「もう我が国にお金はない」と強調するドゥテルテ大統領の記者会見が流れていました。

 「国ガチャ」の違いをどうにもこうにも体感させられました。同じ土地にいるのに、日本に生まれたがゆえに自分はなんとかなってしまう。

ガチャによる理不尽を1ミリでも減らすために人生を使う

 細々と生活をするための稼ぎを得ながら、これからどう生きるのかの選択の余地を残された私は、やはりこの不均衡を1ミリでも減らすために人生を使おうと改めて決意しました。

 コロナで求人は取り下げられ、面接さえ断られたご時世に、唯一気持ちをくみ取って受け入れてくれたのは課題解決をする起業家のプラットフォームとなっているボーダレスジャパンでした。現在は、生まれた環境に関係なく人生を選べる雇用機会を生み出すべく、Island Honey Worksを設立し、事業作りに励んでいます。

 日本においても「地域ガチャ」「性別ガチャ」「親ガチャ」による理不尽が存在し、世界に目を向けるとキリがないほどです。でも私は、どんなガチャのもとに生まれても、人生を選べる世界を作れると本気で信じて、これからも取り組んでいきます。

 「Social Good Opinion」の<インスタグラムアカウント>を開設しました。そちらも合わせてご覧ください。

大野雛子

Island Honey Works(株)代表

 1996年生まれ。大学時代の専攻はインド哲学。大学1年次にフィリピンの貧困解決に興味を持ち、トビタテ4期生として貧困削減方法の探求を目的にフィリピンに1年間留学。卒業後は新卒でフィリピン現地の旅行会社に勤務。コロナの影響を受けて帰国し、現職。