宮家邦彦の「公開情報深読み」

民主主義サミットに対抗する「中国の民主」白書を「深読み」

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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中国の習近平国家主席=AP
中国の習近平国家主席=AP

 12月9日から米国は日欧などを招いて民主主義サミットを開く。その直前の4日、中国は「中国の民主」白書を発表し、「中国には独自の民主がある」とする大々的宣伝キャンペーンを開始した。

 内外マスコミは、中国が「全過程人民民主」なる概念を掲げ、政治システムやイデオロギー領域でも米国の「覇権」に挑む姿勢を鮮明にした、などと報じている。

 更に、中国外交部は5日、米国の民主主義の問題を指摘する文書を公表した。「アメリカの民主主義は『金権政治』に成り下がり、少数のエリートによって統治され、人種差別の問題も根深く、貧富の格差が広がっている」などと批判したそうだ。果たして中国側の主張に説得力はあるだろうか。今回は中国が発表した「中国の民主」白書の内容を深読みする。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

「中国の民主」白書

 12月4日に中国政府が発表したのは「中国的民主(中国の民主)」と題された白書だ。中国漢字2万語以上の大部で、発行者は国務院の新聞弁公室である。

 人民網によれば、「民主は、全人類に共通した価値であり、中国共産党と中国の人民が終始確固として維持する重要な理念」とされている。

 だが、これだけでは中国に民主主義があることの証明にならない。

 一方、同白書は「民主は各国の人民の権利であり、少数の国の専売特許ではない」と主張し、中国が考える「民主の基準」と思われるものを示している。

 そもそも中国には欧米式の民主主義を受け入れる気などないのだから、そんな宣伝用の「白書」など読むに値しないとの声もあるだろう。

 しかし、それはフェアではない。日本にだって日本独特の民主的慣行は存在するのだから、中国の言い分を門前払いすることはしたくない。

 されば今回は、日米などの民主主義諸国が理解する民主主義の定義ではなく、百歩譲って、中国自身が説明する「民主」の基準に従い、中国が真に民主的であるか否かを考えてみよう。

中国の「民主」は「民主主義」ではない

 もうお気付きだとは思うが、今の中国は「民主主義」という言葉を使わない。デモクラシーはあくまで「民主」であって、「民主主義」すなわち「政治的イデオロギー」ではないからだ。

 つまり、中国で「民主」は一定の政治的「状態」に過ぎず、決して「政治制度」や「主義・主張」の対象ではないのである。

中国が考える「民主」の条件

 以上を前提に、「中国の民主」白書「前言」にある次の「民主の基準と思われるもの」を読んでほしい。いつもの通り、【】内は筆者の独断と偏見のコメントである。

 

 一つの国家が民主である否かは、

 ■その国家の人民が真にその国家の主人であるか否かにかかっている(一个国家民主不民主,关键在于是不是真正做到了人民当家作主)

 【中国では「共産党の指導」が最優先である以上、中国国家の「主人」は事実上共産党であって…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。