ウェストエンドから

移民もLGBTも敵。中東欧諸国に通底するロジックとは

服部正法・欧州総局長
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ビクトル・オルバンハンガリー首相=ハンガリー・ブダペストで2021年10月26日(AP)
ビクトル・オルバンハンガリー首相=ハンガリー・ブダペストで2021年10月26日(AP)

 中欧のハンガリーで来年、LGBTなど性的少数者を巡る国民投票が実施される見通しだ。メディアや司法に対する支配を強め、その強権的な政治手法が欧州内でも批判を集めてきたビクトル・オルバン首相率いる右派政権は近年、「反LGBT」の傾向を鮮明にしており、国民投票を経て性的少数者の権利を求める人たちに、より圧力を加えたい意向とみられる。

 国民投票は来年春に予定されている総選挙と同日に実施するとの観測が強まっており、反LGBT的な保守層を刺激し、そうした層の票の積み上げによって選挙戦も有利に運びたいという政権の思惑を指摘する声もある。

 オルバン政権はなぜ今、性的少数者を狙い撃ちにするのか。現場で背景を探り、学者の論考を参照すると、ハンガリーだけでなく、中・東欧各国に広がる「反グローバリゼーション」の意識が見えてきた。

オルバン政権が試みる性的少数者を巡る国民投票

 11月30日、オルバン氏率いる右派政党フィデス・ハンガリー市民連盟など与党連合が約3分の2の議席を占めるハンガリー議会は、国民投票の実施に関する案を採択した。投票では、公教育の場で親の同意なしに未成年が性的指向について学ぶ機会を持つことや、性的指向に影響を与えるメディア情報を未成年に対して制限なしに与えることなどについて、国民に是非を問う。

 欧州メディアによると、バラージュ・オルバン首相府副大臣は議会で「ハンガリー政府は、ジェンダー・プロパガンダの問題に対して意思を表明するための機会を市民に提案する。我々は、親の同意なく、NGOやメディアの支持によって行われる学校でのLGBTプロパガンダに『ノー』を言わねばならない」と述べた。国民投票を通じてLGBTなどの権利擁護や性的少数者に対する理解を広げようとする市民グループやメディアに打撃を与えたい意向は明らかだ。

 なぜこのような投票が行われることになったのか。

 「ハンガリーは西側の左派の攻撃から自衛する。彼らは家族という概念を相対化しようとすることで伝統的家族を攻撃しており、その際のツールがLGBTやジェンダーのロビー団体だ。彼ら(LGBTなどの団体)は特に子供たちを標的にしている」。2021年9月、首都ブダペストで開かれた国際会議「ブダペスト人口問題サミット」の席上、オルバン氏は自身の考えをこう披歴した。

 西欧型の自由民主主義(=リベラリズム)に対抗し、「非自由民主主義(=イリベラリズム)」を掲げ、シンガポールやロシアをモデルにした国家建設を目指すとも語るオルバン氏は、性的少数者をリベラリズムの価値観が具現化した「敵」と認識しているように見える。

 オルバン政権は近年、矢継ぎ早に性的少数者への圧力を強めている。20年5月には、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人々について、誕生時に公的書類に明記した性別からの変更を許さない法を成立させ、同年12月には、同性カップルが養子を持つことを事実上禁じる法を通した。

 さらに21年6月には、未成年向けの教材や広告、映画などで同性愛の描写などを禁じる法案が議会で可決された。

 この法に対して、欧州連合(EU)加盟国からは批判が相次いだ。欧州メディアによると、EUのフォンデアライエン欧州委員長は新法を「恥ずべきもの」と呼び、「新法は明らかに性的指向を基に人々を差別しており、EUの根本的な価値観に反している」と非難した。

 オランダのルッテ首相はEU首脳会議の席上、オルバン氏に対し、「(欧州の価値観が)嫌いならEUを去るべきだ」と発言。ルッテ氏は別の機会に記者団に対して「ハンガリーにはもはやEUに居場所はない」とまで言い切った。同性愛者であることを公言しているルクセンブルクのベッテル首相は「EUにはヘイト(憎悪)、非寛容、差別の余地はない」とツイートした。

 一方、ハンガリー政府はこういった批判に対し「法は子供の権利を守り、親の権利を保障するもので、18歳以上の性的指向の権利には適用しない。いかなる差別的要素も含んでいない」と反論した。だが、「性的指向で差別するために子供の保護を口実に用いている」(フォンデアライエン氏)との批判的な見方は西欧で根強い。

「移民の次の敵がLGBT」

 12月初旬、私はハンガリー政府の少子化対策の取材のためにブダペストに入ったが、滞在期間中、2人のLGBT活動家に会う機会があったので、状況を聞いてみた。

 ドロッチャ・レダイさん(48)は、苦境に立つハンガリーのLGBTコミュニティーの状況を象徴する人物として、おそらく今世界で最も著名な人物だ。米誌タイムが選ぶ恒例の「最も影響力のある100人」に今年選ばれた。

 レ…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。