Social Good Opinion

My life is my message. 胸を張ってそう言える生き方を、自分の手でつくる。

石川凜・ポケットマルシェ 事業開発部リーダー
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石川凜さん=筆者提供
石川凜さん=筆者提供

私が食と農の問題に「取り組まざるを得ない」わけ

 なぜそれほど農業や食の課題解決に熱心になれるのか、と聞かれることがある。

 課題そのものについては本連載でもすでに多くの方が書かれていたので、今回はそこに私が取り組む理由や生き方の選択について紹介したいと思う。

 私は社会課題に対して関心の高い家庭で育った。物心がついた頃には父親と一緒に街頭デモに参加し、プラカードを持って駅前の商店街を練り歩いた。小学校の頃には兄が友人らと始めた「こどもエコクラブ」の一員として環境問題についての情報を発信する新聞を発行し、週末には川の清掃活動にいそしんだ。

 そんな私が食や農業の問題に注目するようになったのは、生まれ育った仙台市で東日本大震災を経験してから。当時15歳だった私は、震災発生直後、必死に水や食料を買いに走り回った。スーパーに行けばいつでも食べ物を手に入れられるという状態は、決して当たり前ではない。明日食べるものがないかもしれないという不安を、今も抱えながら生きている人たちが世界にはいる。そういったことを、実感を伴って考えられるようになった。同時に、自分が当たり前に食べていた食べ物がどこで生産され、手に届くまでにどのような過程を経ているのか知りたいと思った。

 そこからは、食と農にまっしぐらな学生時代を過ごした。農業経済を学ぶために京都大学農学部に進学し、規格外野菜を活用して農家さんと食べる人をつなぐ学生団体の代表を務めたり、サークルで農家さんの畑に頻繁に援農に行くなど、学外の活動に精を出した。地域の農家さんを消費者が買い支えるCSAという仕組みを学ぶべく、教授に直談判して交換留学のプログラムを整備してもらったりもした。

筆者提供
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キャリアの選択肢を自分でつくる

 留学から帰国して衝撃を受けたのは、自分が取り組みたい課題に対して真っすぐに向き合える就職先の選択肢が全然ないということ。共感できる企業はあっても、そこに新卒で就職するという選択肢はほとんど用意されていなかった。

 一緒に農業経済を学んでいた友人のほとんどが、農業に無関係な仕事を選んだ。彼ら彼女らは、「農業に関わる仕事をしたいと思っても選択肢がない」と言った。京大を卒業したら大企業に行くのが当たり前。やりたいことを仕事にする前に、大きな会社で「修業」をするのが当たり前。そんな「当たり前」のプレッシャーはあまりにも大きく、私も一度は皆と同じように就活をし、多くの友人がそうしたように自分の興味とは関係のない道を選ぼうとした。

 だけど人生の遠回りをすることを、私の性格が許さなかった。やりたいことにはとにかく真っすぐに突き進みたいし、いつ死んだとしても後悔しない決断をしたい。迷った末に、私は自分がやりたいことに一番近い事業を行っている会社で複業をするという道を選んだ。

 ひとつは坂ノ途中、もう一つはポケットマルシェという会社だ。坂ノ途中は環境負荷の小さな農業を広めるべく農産物の流通を行っており、ポケットマルシェは生産者と消費者をつなぐプラットフォームを運営している。この二つの会社であれば、持続可能な食料生産と流通、消費のあり方をつくる動きに関わることができると思った。

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理想の社会へと、真っすぐに向かいたい

 My life is my message. これは私のモットーだ。信念を持って、一つ一つの選択をできる人でありたい。人生を通して、思想や哲学を体現していけるような存在でありたい。キャリアだけではなく、日々の生活についてもそう考えている。

 その一つの実践が、拡張家族「Cift」のメンバーとしての暮らしだ。人は昔からコミュニティーの中で生きてきたはずなのに、現代日本では一人もしくは家庭ごとに独立して生きていくことが当たり前になっていることに違和感があった。コミュニティーの中であらゆる物事をシェアし、日々の対話を通して互いをアップデートし続ける。その“拡張家族”としての実践が、行き過ぎた個人主義社会で生じた分断をつないでいくのだと思う。

 渋谷や京都にあるCiftの拠点では、コンポストや菜園づくりに取り組んでいる。栄養循環を作り出すことで少しでも自分たちと周囲の生態系との間をつないでいきたいし、食材はできる限り知り合いの農家さん・漁師さんから購入し、皆でシェアすることで経済も循環させていきたい。

 誰のために、何のために自分の時間やお金を使うのか。そのことに常に意識的でありたいと思う。取り組みたい課題があったり、あるテーマについて特別な思いがあっても、そこに真っすぐに進める人は多くない。無難な道を選んで思考停止しないこと。多少のリスクを取ってでも、理想とする社会と自分の行動を接続させるような道を見いだすこと。皆がそうやって自分の人生を妥協しないで生きていけるような世の中であってほしいし、私自身も自分の生き方を発信することで、誰かの背中を押すことができたらと願う。

筆者提供
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石川凜

ポケットマルシェ 事業開発部リーダー

 1996年生まれ。京都大学農学部食料・環境経済学科在学中、アメリカに留学し持続可能なフードシステムのあり方について研究。新卒で複数社でのパラレルワークを実践したのち、多数の企業や地方自治体とのアライアンス事業における企画・ディレクションを行う。個人活動として、坂ノ途中の編集室連載エッセー「考える食卓・おいしい未来」執筆、公開勉強会「食と農のもやもやゼミ」主催。