核禁条約に背を向けたまま「核なき世界」へのリーダーにはなれない

伊藤和子・弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
  • 文字
  • 印刷
核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて開かれた国連安全保障理事会の公開会合=米ニューヨークの国連本部で2020年2月26日、隅俊之撮影
核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて開かれた国連安全保障理事会の公開会合=米ニューヨークの国連本部で2020年2月26日、隅俊之撮影

 2021年1月22日に核兵器禁止条約が発効してからまもなく1年になる。 22年3月には核兵器禁止条約の第1回締約国会議の開催が予定されている。

 核兵器は気候変動問題と並んで、人類がつくり出した人類の脅威だ。次世代に引き継ぐことなく、根絶することが地球規模の重要な課題であることは疑いようもない。

 日本が唯一の戦争被爆国としてその先頭に立つことは歴史的な使命と言えるだろう。日本がこの問題で外交上のリーダーシップを発揮することを世界は期待している。

旧態依然とした政府の対応

 岸田文雄首相は就任後、広島出身の国会議員として核なき世界のために尽力すると繰り返してきた。その本気度を信じたい気持ちもある。しかし現実の日本政府の対応はどうだろうか?

 この間のNGOと政府との交渉や、各種記者会見などを見る限り、日本政府の対応は、課題に対する旧態依然とした、冷笑的とすらいうべき姿勢で貫かれているように感じる。

 日本政府はようやく発効した核兵器禁止条約を一向に批准しようとしない。

 22年3月に予定される同条約の第1回締約国会議は、非加盟国に広くオブザーバー参加を呼び掛けているが、日本政府は「参加予定国に核保有国が一カ国もいない」などとしてオブザーバー参加にすら否定的だ。

 核兵器のない世界と言いながら、それを具現化しようとする核兵器禁止条約に背を向ける態度は矛盾しているとしかいいようがない。

議論に加わる米同盟国

 核兵器禁止条約にはいわゆる西側諸国に属するオーストリアやアイルランド、ニュージーランドも参加している。日本が批准しても何ら不思議ではないだろう。

 ノルウェーやドイツは条約を批准しないものの締約国会議にオブザーバー参加することを表明した。両国は北大西洋条約機構(NATO)に参加するアメリカの同盟国である。

 「核の傘」に入ってジレンマを抱える国も含めて締約国会議に参加し、議論を進めるという選択は、世界を励ますものだ。こうした国が少しずつでも増えることが核兵器のない世界を現実のものとすることにつながるだろう。

 考えてみれば、地球温暖化問題も、化石燃料に依存している国々が参加し、グレタ・トゥーンベリさんのような若者やNGOから厳しい批判にさらされながら、次世代の声にこたえ、少しずつ自分たちを変えようとしているのだ。世界のリーダーが一堂に会するからこそコミットメントが生まれ、前進があるのだ。

 そのようなフォーラムをつくり、それを動かすことが核兵器をなくすために必要なのに、なぜ、そのために汗をかかずに背を向けようとするのだろうか。

「先制核不使用」に待った

 日本政府の主張は、核保有国を巻き込まない議論に意味はない、核保有国と非核保有国の間の橋渡しをしたい、というもののようだ。岸田首相は「特に米国との信頼関係を築くことからはじめたい」などと繰り返している。

 しかし、日米関係は戦後一貫して日本外交の主軸であったはずであり、いまさら信頼関係を築く必要があるとは理解に苦しむ。

 その一方で日本政府は、米バイデン政権が先制核不使用を宣言…

この記事は有料記事です。

残り1503文字(全文2773文字)

伊藤和子

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

 1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、冤罪(えんざい)事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を超えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGOヒューマンライツ・ナウを設立。事務局長として国内外で人権侵害の解決を求めて活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。