Social Good Opinion

田舎プチ移住で見えた小さな集落の価値と可能性

髙橋和佳奈・神田外語大学国際コミュニケーション学科
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髙橋和佳奈さん=津田真実さん撮影
髙橋和佳奈さん=津田真実さん撮影

 情熱の矛先を探し求め、たどり着いたのは愛媛県の山奥にある人口約270人の小さな集落。限界集落とも呼べるこのコミュニティーには、これからを生きる私たちが、未来に残さなければならない日本本来の姿が残っていました。

休学期間限定のプチ移住で感じるギブの精神

 2020年4月から、世界一周をしようとしていた私ですが、感染症拡大に伴い、その夢も延期になり、1年間の休学を決意しました。何かしたいのに何をすればいいのか分からない……。そんな時に、知り合いの経営者が、「面白い拠点作ってみない?」と、私を愛媛県で一番小さな町、松野町の中にある、目黒という集落に連れてきてくれたのです。

しっくいを塗って古民家を改装=井上美羽さん撮影
しっくいを塗って古民家を改装=井上美羽さん撮影

 数年間空き家となっていた見晴らしの良い古民家を借り、家具の大片付けから始まった田舎暮らし。暮らしやすくなるように無我夢中で古民家のDIYを進めていると、近所に住む人たちがとれたて野菜を持ってきてくれたり、時には冷蔵庫やストーブ、こたつなど、家に眠っていた家電を譲ってくれたり、改装を手伝ってくれたり、気にかけてやってきてくれるようになりました。

 今までの都会でのご近所付き合いでは感じたことのないような温かい優しさに包まれ、ここでの生活、さらに自分の心までもが充実していきました。見返りを求めないギブの精神であふれたこの地域コミュニティーが、コロナ禍によってできた心のモヤを晴らし私を救ってくれました。これこそ日本の地域コミュニティーの在り方、他者との関わり方の原点なのかもしれないと感じます。

暮らしの根源が残る集落の価値

 私がこの地域の人たちと関わる中で感じたのは、ギブの精神に加えて、暮らし自体の価値でした。最低でも自分たちで消費する量の野菜やお米は自らの手で育てていたり、今でも薪をくべてお風呂を沸かしていたりと、この地域の人たちは、都会で暮らす人たちに比べ自給自足に近い生活を送っています。そして、このような日々の暮らしを通して、生きる上で必要な知識や技術、柔軟な対応力を身につけているため、災害などの緊急時に、物流が滞り困難に陥った時にも、瞬時に対応ができると考えられます。田舎暮らしは不便だと感じることも多いです。しかし、便利であることに慣れている都会の人たちの暮らしより、格段に「強い」と感じるのです。

近所の方にいただいた里芋は家の下の川で土を落とす=井上美羽さん撮影
近所の方にいただいた里芋は家の下の川で土を落とす=井上美羽さん撮影

 現在、コロナ禍で食べ物の大切さを痛感し、自分自身の働き方や将来の暮らしを考え直す動きが見られ、就農希望者が増加しているそうです。<就農へ意欲たわわ コロナ禍で働き方変化「食べ物の大切さ痛感」>このようなコロナ禍による人生観の変化や、「農」への社会のシフトチェンジによって、日本の暮らしの源とも呼べる、豊かな知恵が残る地方の小さな集落は、今後さらに価値を高めていくのではないでしょうか。

価値と可能性を信じて

 近年、若者を中心に環境問題への関心が高まりを見せ、私たち人間が創り上げてきた消費社会、経済優先の仕組み自体を見直す機会が増えてきています。ここ、松野町目黒は、森の中、自然の中に、集落と人間が溶け込んでいるような感覚が得られると共に、循環型社会、自然との共存、地産地消、自給自足といったキーワードが、暮らしの中にちりばめられています。地球規模で課題を考える前に、よりローカルに考えることに焦点が置かれる今だからこそ、小さな集落の可能性や暮らしの価値を、これからの未来を生きる私たちが知っておくべきだと感じています。

 また、世の中は、コロナ禍のリモートワーク推奨などにより、働き方が見直され、地方への分散社会へかじを切っています。<コロナ禍で進む分散社会=松永桂子>そんな地域社会が新たなフェーズを迎える今、日本の少子高齢化の現状が明らかな限界集落を未来に残していくためには、定住人口や関係人口の増加を目標に、外と内の風通しが良い地域にするためのまちづくりが、重要だと感じています。

 そこで私は、ギブの精神でたくさんの優しさを与えてくれた目黒に恩返ししたい気持ちもあり、ここでの暮らしや、地域コミュニティーの魅力をSNSで発信しています。そして目黒や私の生活に興味を持ってくれた方などを古民家に招待したりして、地域の人たちと関わり、新たなアイデアやそれぞれの人生観をシェアできる場を作っています。さらにオンラインコミュニティーを発足させ、近況報告やオンライン交流会で、この古民家の今後の使い道を考えたり、自分自身の視野を広げていったりしたいと思っています。

近所の農家さんの草引きをお手伝い=津田真実さん撮影
近所の農家さんの草引きをお手伝い=津田真実さん撮影

 限られた期間の中でのプチ移住のため、私ができることは限られていますが大学生目線でここでの生活を発信し、風通しを良くすることで、この集落を少しでも元気にできればいいなと思いながら暮らしています。そして、私の暮らしの発信が、同世代であり、将来を担うZ世代にとって、地方の小さな集落の可能性を感じるきっかけになれればうれしいです。

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髙橋和佳奈

神田外語大学国際コミュニケーション学科

 2000年生まれ。現在1年間の休学をし、愛媛県松野町に古民家を借りてプチ移住。集落での日々の暮らしに魅力を感じ、SNSやオンラインコミュニティーで情報発信、古民家を使った場づくりを模索中。