潮流・深層

復讐の先に再選はあるのか。トランプ氏の「推薦戦略」

古本陽荘・北米総局長
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支持者に呼びかけるドナルド・トランプ氏、2021年1月6日撮影=AP
支持者に呼びかけるドナルド・トランプ氏、2021年1月6日撮影=AP

 米大統領選で「不正があった」と主張するドナルド・トランプ前大統領の呼びかけに応じ、支持者が連邦議会を襲撃した事件(2021年1月6日)から1年たった。

 事件直後、「トランプ氏の政治生命は終わった」という受け止めが大勢だったが、実際にはトランプ氏は共和党支持者の間で根強い人気を維持している。24年大統領選再出馬への意欲も隠さない。その再出馬の可能性を占うのが今年11月の中間選挙だ。

 米国の政党は党本部の組織が弱い。党首という明確な存在はおらず、大統領を出している党では、大統領が事実上の党首を務める。野党は、上院トップの院内総務などがその役割を果たすか、下院の多数派の議席を握っている場合は、下院議長が指導者として振る舞う。こうした慣例からすれば、大統領を辞めた後もトランプ氏が共和党の事実上の党首であるかのように振る舞っている現状は極めて異例だ。

 トランプ氏は大統領選で「大規模な不正があった」と今でも主張し、「勝利したのは自分だ」と明言している。共和党支持者の半数以上がこれを信じているという状況が続いており、トランプ氏が共和党を牛耳っていられるのは、こうした特殊な事情があるからだろう。

 ただ、トランプ氏自身、その政治力を維持するためにいろいろと画策している。その一つが中間選挙への積極的な介入で、共和党候補への「推薦」を次々と発表している。日本のように政党の機関決定を経た推薦ではなく、トランプ氏が個人的に発表しているものだ。

 米政治情報サイト「バロットペディア」の集計(1月3日現在)では、トランプ氏は今回の中間選挙に関して、共和党の上院議員候補14人、下院議員候補29人、知事候補12人への推薦をすでに発表している。

 中間選挙に向けて春から秋にかけ、共和、民主両党ともに党の公認候補を決める予備選が行われる。両党候補が対決する本選の投開票日は11月8日。任期2年の下院は全435議席、任期6年で2年ごとに3分の1が入れ替わる上院は34議席が改選され、知事選は36州で行われる。

 注目すべきは、トランプ氏の推薦を出す時期の早さだ。共和党の予備選が本格化するのはこれからだ。党の候補が決まっていない段階で「党首」が推薦を出すのには、二つの狙いがありそうだ。

 一つは、現職のいる選挙区も含めて自分が推薦することで、事実上、共和党候補を決めてしまうこと。トランプ氏が推薦した後、別の共和党候補が出馬するのは困難になる。トランプ氏が「勝ち馬」に乗るだけという場合も多いが、推薦した候補が予備選に勝利すれば、「自分のおかげ」と言い張ることができる。

 トランプ氏は大統領選とともにあった20年の議会選挙でも推薦を出しており、政治サイト「ファイブ・サーティー・エイト」によると、トランプ氏推薦候補の予備選での勝率は98%。「私が推薦するとみんな勝つ」とトランプ氏は豪語していたが、まんざらうそでもなかった。

 今回はこれに加えてもう一つ、推薦により「劇場型」選挙を演出する狙いがある。共和党の現職候補や有力候補がいる選挙区で、あえて別の候補に推薦を出し、「トランプ印」で形勢逆転を狙うものだ。逆転に成功すれば、政治力を示すことができる。

 トランプ氏がこうした選挙区で狙っているのは「復讐(ふくしゅう)」の色合いが濃厚だ…

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)。