なぜミサイル防衛に米軍を活用しないのか

小川和久・静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト
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小川和久氏=北山夏帆撮影
小川和久氏=北山夏帆撮影

 このところ、与野党の安全保障問題に関わる国会議員と会うたびに、必ず質問していることがある。日本に敵意を抱く国を抑止するための打撃力(不思議なことに、日本では敵基地攻撃能力と呼ばれている)と、それと表裏一体の関係にあるミサイル防衛についてである。

空理空論のミサイル防衛政策

 2021年12月22日配信の拙稿では<敵基地攻撃論のリアル>と題して、日本の議論が空想の域にとどまっており、現実には質量ともに韓国が備えるキル・チェーンのようなレベルに達して初めて、他国に攻撃を思いとどまらせるだけの抑止効果を発揮できるとの現実を紹介させてもらった。

 しかし、それだけでは十分ではない。ミサイル防衛能力を高めなければ、打撃力との車の両輪が備わったことにならない。悲しいことに、そのミサイル防衛に関する政策と議論が、これまた当事者意識を欠いた空理空論の遊びに終始している。

イージス・アショア計画の白紙撤回

 04年に整備が始まった日本のミサイル防衛は、中間段階を海上自衛隊のイージス艦が搭載するSM3(射高70~500キロ)が、終末段階を航空自衛隊のパトリオットPAC3(射高20キロ)が担当する形になっている。米国はこの2枚の「帽子」に加え、終末段階用に戦域高高度防衛ミサイル(THAAD、射高40~150キロ)と中間段階用にGBI(射高2000キロ)を備え、この4枚の「帽子」を重ねてかぶる濃密なミサイル防衛体制をとっている。

 そうした日本のミサイル防衛を強化するため、防衛省は18年にイージス・アショア(陸上イージス)の導入を決めた。イージス艦のSM3を陸上配備するもので、運用は陸上自衛隊。数に限りがあり、ほかの任務も担わなければならないイージス艦の負担を減らし、2カ所への配備で日本列島全域をカバーできるメリットがあると期待が高まっていた。

 ところが19年に配備先の一つ、秋田県・新屋演習場の測量を防衛省がグーグルアースで行い、実測値と誤差があることが地元紙のスクープで明らかになり、そのずさんさに地元の不信感が高まった。

 そのおりもおり、もう一つの配備先・山口県むつみ演習場について、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」(推進補助装置)を演習場内に確実に落下させるにはソフトとハードの改修に莫大(ばくだい)なコストと長い時間が必要になることが明らかになった。これを受けて、河野太郎防衛相(当時)は20年6月、山口・秋田の両県知事に謝罪し、イージス・アショアの計画は白紙撤回されることになった。

遅れる対応

 仕切り直しを余儀なくされた政府は20年12月、イージス・アショアに代わる「イージス・システム搭載艦」の導入を閣議決定したが、21年5月になって「イージス・システム搭載艦」の総コストが少なくとも9000億円近くかかるとの試算が明らかとなり、22年度予算の概算要求でも、建造費計上は見送られた。

 これにより、イージス・アショアの配備目標だった23年度より10年近く遅れる恐れが出てきた。仮に23年度からイージス・システム搭載艦の建造にかかったとしても5年以上はかかる。システムのテストや要員の習熟訓練の時間を考えると、少なくとも8年ほどは必要で、実戦配備は2030年代になってしまう。その間のミサイル防衛を現状のまま放置してよいわけがない。

悠長な日本政府

 ミサイル防衛能力の向上によって抑止力…

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小川和久

静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト

 1945年生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣ではドクター・ヘリ実現に中心的役割を果たした。電力、電話、金融など重要インフラ産業のセキュリティ(コンピュータ・ネットワーク)でもコンサルタントとして活動。2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。『フテンマ戦記基地返還が迷走した本当の理由』『日米同盟のリアリズム』など著書多数。