ふらっと東アジア

コロナ禍の北朝鮮で兵器開発を支えるもの

米村耕一・中国総局長
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北朝鮮・新義州の船着き場。後方の白い建物には「防疫監視所」と書かれている=中国遼寧省丹東で2021年9月、米村耕一撮影
北朝鮮・新義州の船着き場。後方の白い建物には「防疫監視所」と書かれている=中国遼寧省丹東で2021年9月、米村耕一撮影

 北朝鮮が新型ミサイルの発射実験を繰り返している。昨年1月の朝鮮労働党大会で示した「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」に沿って、今後も実験を重ねていく可能性が高い。

 核・ミサイル開発のために厳しい経済制裁を受け、さらに新型コロナウイルス対策による国境封鎖によって、物不足に悩んでいるはずの北朝鮮は、どうやって兵器開発に必要な資材や外貨を調達しているのか。短期的には過去の蓄積があるとしても、いずれは困難に陥るはずだ。

 答えの一つが、海上密輸だ。外貨獲得源の柱の一つである石炭密輸について中朝貿易関係者に取材すると、北朝鮮のしたたかさと苦悩の両面が見えてきた。

北朝鮮ビジネスマンの切羽詰まった「相談」

 北朝鮮に対して現在の厳しい制裁が科せられる前の2010~15年の5年間、北朝鮮は毎年約10億ドル(約1100億円)分の石炭を中国に輸出していた。これは北朝鮮の輸出総額のおおむね3分の1だ。石炭は、北朝鮮経済の屋台骨を支える輸出品目と言っても過言ではなかった。

 ところが16年11月以降、北朝鮮の核実験を受けて国連安全保障理事会(安保理)が決議を採択し、鉱産物や水産物、繊維製品から労働力受け入れまで、北朝鮮との取引の多くが包括的に禁じられた。この措置を受けて中国商務省が北朝鮮からの石炭輸入の停止を発表したのは17年2月だ。北朝鮮の対中輸出は16年の26・3億ドルから17年は16・5億ドル、さらに18年には1・9億ドルと激減した。

 しかし、北朝鮮はその後も貿易統計に表れない密輸の形で、石炭輸出を続けている。

 「黒いもののことで相談がある。8000トン積んだ船が上海近くまで行ったのだが引き取り手が見つからない。関心のある業者を、なんとか探してもらえないか」

 昨年12月上旬、中国沿岸都市に住む中国人の貿易業者は、旧知の北朝鮮ビジネスマンから数カ月ぶりに連絡を受けた。「黒いもの」は、石炭のことだとピンときた。提示された売値は1トンあたり550元(約9900円)だった。その時点での中国国内での石炭相場は820元程度で、1トンあたり300元(約5500円)は安かった。

 しかし、この貿易業者は石炭密輸に関わった経験はなく、引受先を紹介するのは難しいと判断し、断った。「私のところにまで声をかけてくるということは、(北朝鮮側が)相当に切羽詰まっているのだろう」と、その業者は振り返った。

 中朝間の密輸を含む貿易事情に詳しい関係者の話を総合すると、21年秋には一時、石炭密輸が活発化した。10月が最も盛んだったという。しかし、その後は中国側の取り締まりが厳しくなり、年末にかけて下火になった。ある貿易関係者は「最近では石炭密輸の成功率は4割だ。つまり10隻のうち6隻は捕まる」と明かす。

 韓国紙中央日報は昨年12月、カナダ政府が10月後半から11月にかけて、中国の山東半島付近の海上で、不審な船から船への荷物の受け渡しを少なくとも24回、確認したと報じている。カナダ空軍の哨戒機は10月中旬から11月中旬まで、沖縄の嘉手納基地を利用して北朝鮮による制裁違反の監視活動をしていた。同様の報道は11月下旬にも出ており、こうした報道が中国側の取り締まり強化につながった可能性もある。

 北朝鮮側の事情をよく知る関係者は…

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。