資本主義は生まれ変わるのか

井手英策・慶應義塾大学経済学部教授
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衆院予算委員会で挙手する岸田文雄首相=国会内で2022年1月24日、竹内幹撮影
衆院予算委員会で挙手する岸田文雄首相=国会内で2022年1月24日、竹内幹撮影

 2022(令和4)年度予算の国会審議が始まった。予算規模は「過去最大」の約108兆円、自民党総裁選で岸田文雄首相が示した「新しい資本主義」「成長と分配の好循環」「予算の単年度主義の弊害是正」の実現をめざす。

 22年度予算の分配戦略を見てみよう。まず、看護師に月額1万2000円、介護士、保育士等に月額9000円で平均給与を3%引き上げる。これに成長分野を支える人材育成や非正規労働者のステップアップ、円滑な労働移動の支援が加わり、さらに、下請け企業いじめ解消のための下請けGメンの人員倍増も盛り込まれた。

 成長戦略を見てみると、「科学技術立国」と称し、過去最大の科学技術振興費を計上した。規模は約1兆3800億円である。また、デジタル庁予算の拡充、地方創生推進交付金のデジタル重点化なども掲げられた。

代わり映えしない予算

 「成長と分配の好循環」が「新しい資本主義」をもたらす――これが岸田政権の主張だが、そもそもの話、「成長と分配の好循環」というフレーズは、第2次安倍晋三政権の「ニッポン一億総活躍プラン」で既出である。そのうえ、17年度予算でも、介護士や保育士等の処遇改善が行われた。これらの額を多少積み増すことで、どのように資本主義が生まれ変われるのか、その論理は判然としない。

 その他の施策も見てみよう。人材育成や労働移動への支援はよい。下請けいじめの解消も重要である。だが、予算規模をみると、前者は1019億円、後者に至ってはわずか21.3億円にすぎない。

 下請けいじめの解消はかなり微妙な予算措置だ。大企業が中小企業から商品等を購入する際、消費税の転嫁を拒否することがある。じつは、これを防止するために設けられた「消費税転嫁対策特別措置法」が21年度末に失効する。

 この失効自体、大問題なのだが、今回は、これを受けて消費税転嫁Gメンを289人から42人に削減し、浮いた予算で下請けGメンを120人から248人に増加した。ところが予算額は、前年度の35.6億円から縮小してしまっている。

 成長戦略も同様である。「過去最高の科学技術振興費」とは言うが、対前年度比でわずか150億円の増である。デジタル庁予算は1600億円増えたが、これは各府省システムの予算1330億円を同庁予算として一括計上した結果であり、地方創生推進交付金1000億円も毎年度計上されているもので、増額ではなく使途変更である。

 勇ましいキャッチフレーズが躍っているが、予算は小出しで、安倍前政権と大きく代わり映えしない。「新しい資本主義」には程遠いというのが率直な印象である。

「見えない債務」依存

 続けて、もうひとつの柱である「予算の単年度主義の是正」を見てみよう。

 単年度主義という言葉、あまり聞きなれないかもしれない。毎年度の予算を国会が審議し、議決することをさす。つまり、歳出予算は次年度に繰り越せず、年度内に無理をしてでも消化しないとけない。予算を何とか使い切るために、年度末に道路工事が突然始まる……そんな光景はみなさんにもおなじみかもしれない。

 22年度予算では、「国庫債務負担行為」の活用がうたわれ、公共事業だけで2.1兆円が設定された。国庫債務負担行為とは、国会の議決を経て、国が次年度以降も効力が発生する債務を負担するもので、これで複数年度の契約が可能になる。複数年度で発注と契約を行えれば、年度末の無駄な予算消化も減らせる。

 だが、国庫債務負担行為もまた、第2次安倍政権以降、増加を続けており、特別の新規性があるわけではない。いや、違う意味で、問題が深刻になったというべきだろう。それは民主主義の形骸化という問題である。

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井手英策

慶應義塾大学経済学部教授

 1972年生まれ。東大大学院博士課程単位取得退学。日本銀行金融研究所、横浜国大准教授などを経て2014年から現職。専門は財政社会学。15年、「経済の時代の終焉」(岩波書店)で大佛次郎論壇賞を受賞。16年度慶応義塾賞を受賞。著書に「18歳からの格差論」(東洋経済新報社)、「分断社会を終わらせる」(筑摩書房)、「財政から読みとく日本社会」(岩波書店)、「幸福の増税論」(岩波書店)など。近著に「どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命」(小学館)。