ロシアの巧みな介入 カザフスタン危機とウクライナ問題

佐藤優・作家・元外務省主任分析官
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カザフスタンで治安維持活動にあたった集団安全保障条約機構の部隊の撤収開始に伴う式典=最大都市アルマトイで2022年1月13日、AP
カザフスタンで治安維持活動にあたった集団安全保障条約機構の部隊の撤収開始に伴う式典=最大都市アルマトイで2022年1月13日、AP

 中央アジアのカザフスタンは、石油、天然ガス、ウラン、銅、鉛、亜鉛などを豊富に産出する資源大国だ。同国ではナザルバエフ前大統領が隠然たる影響力を持ち、中央アジアの中で政情が安定している国と見られていた。1月2日にこの国で異変が起きた。

カザフスタンに平和維持軍

 価格自由化政策の影響で液化石油ガス(LPG)の上限価格が撤廃されて販売価格が2倍に急騰したことに対して一部の国民が反発し、西部地域で市民の抗議活動が始まった。カザフスタンの警察力と国家保安委員会(秘密警察)の力を用いれば、この程度の混乱を鎮圧するのは容易なはずだ。

 しかし、混乱は暴力的性格を帯びるようになり、4日には南部のアルマトイ(旧首都)中心部で警官隊との大規模衝突に発展し、5日、トカエフ大統領は、内閣を事実上更迭し、全国土に非常事態宣言を導入した。それでも事態は沈静化しなかった。

 6日、ロシア、カザフスタンなど旧ソ連6カ国で作るCSTO(集団安全保障条約機構、2022年1月の時点で、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国が加盟している)の議長国アルメニアのパシニャン首相は、トカエフ大統領の要請にもとづき、カザフスタンに集団的平和維持軍を派遣したと発表した。同日、ロシアの空挺(くうてい)師団がカザフスタンに展開し、トカエフ大統領と協力して事態の沈静化にあたった。これで事態は落ち着き、19日にロシアを含むCSTOの部隊は任務を終了、全員カザフスタンから去った。

エリート集団の権力闘争?

 日本や欧米の新聞を読んでいてもこの事件の背景事情がよくわからない。1月中旬、クレムリン(ロシア大統領府)筋から筆者のもとに興味深い情報が届いた。

 それによると、「危機の最大の要因はエリート集団の権力闘争である。一方は、権力構造と経済を現在支配する前大統領ナザルバエフの集団、他方は、トカエフ大統領の集団だ。トカエフ大統領は、ナザルバエフらの利権を奪おうとしている」ということだ。この権力闘争は、トカエフ大統領の勝利で終わった。

 <中央アジア・カザフスタンのナザルバエフ前大統領(81)は18日、自身のウェブサイトなどで国民向けにビデオ声明を発表し「トカエフ大統領が全ての権力を掌握している」と述べ、政界からの完全引退を宣言した。>(1月20日「毎日新聞」朝刊)

混乱に巧みに介入したロシア

 ロシアはカザフスタンの混乱に巧みに介入することに成功した。プーチン大統領は旧ソ連諸国をロシアの影響下に置こうとしているが、その方向に向け、駒を一つ進めることになった。カザフスタンは、ロシアと良好な関係を維持しつつも、親米外交を展開するという独自路線をとっていた。今後、この独自路線は見られなくなり、ロシアとの連携を強めるであろう。ロシア政府が事実上、運営するウェブサイト「スプートニク」がこんな報道をした。

 <カザフスタンとロシアは安定した同盟国、戦略的パートナー国であり、両国の関係が疎遠になっているという噂は正しくない…

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佐藤優

作家・元外務省主任分析官

 1960年生まれ。同志社大大学院博士前期課程修了。神学修士。外務省入省後、モスクワの日本大使館に勤務。著書に「自壊する帝国」「私のマルクス」など。毎日新聞出版より「佐藤優の裏読み! 国際関係論」を刊行。