
機能不全に陥っている日本との関係にも必ず影響を与える5年に1回の選挙まで、1カ月半を切った。にもかかわらず、ワクワク、ドキドキすることも、「この国は、そして世界は、こうなるのだ」という明確なメッセージを聞くことも少ないまま、時間だけが過ぎ去っている気がしてならない。
3月9日投開票の韓国大統領選で、進歩系の与党「共に民主党」候補の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)と保守系の野党「国民の力」候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長(61)が、デッドヒートを繰り広げているにもかかわらずだ。
背景にあるのは、両候補が「非好感度」を競い合うような展開になっていること。李氏は京畿道城南市長だった2014年に始まった都市開発事業に絡んだ側近らによる贈収賄事件や長男の賭博問題に、尹氏は妻の経歴詐称や陣営内部のごたごたに、それぞれ足を引っ張られている。とにかく失点続きなのだ。
2人がそんな体たらくだから、当初は泡沫(ほうまつ)候補扱いされていた「韓国のビル・ゲイツ」が、キャスチングボートを握る立場へと躍り出たのだろう。
「第三の候補」を支える本部長の話
「第三の候補」として支持を急伸させたのは、今回が3回目の挑戦となる中道系野党「国民の党」候補の安哲秀(アン・チョルス)代表(59)。元医師で、コンピューターウイルス対策ソフトを開発したIT実業家の顔も持つ人物だ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が当選した前回17年の大統領選では3位だった。昨年4月のソウル市長選にも出馬表明したが、「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)市長との共闘に応じる形で辞退している。
1月21日に世論調査会社「韓国ギャラップ」が公表した調査によると、安氏の支持率は、李氏の34%、尹氏の33%に続く17%にまで上昇した。昨年11月の出馬表明直後は数%程度だった。韓国国会で開かれた安氏の出馬表明記者会見も取材に行ったが、華々しい李氏や尹氏の選挙イベントに比べると、ずいぶんこぢんまりしていた。だから、余計に健闘していると思えてくる。
1月10日、その安氏を選対総括本部長として支える国民の党の李泰珪(イ・テギュ)国会議員に国会でインタビューした。生真面目な雰囲気を漂わせた人で、質問の一つ一つに逃げることなく、はっきりと答えてくれた。
まず李泰珪氏は「非好感度を争う最悪の選挙戦となり、国民は不満を高めている。このため、道徳性に問題のない安氏に支持が向かっている。家族にも問題がない。安氏は今、有権者に再評価されつつある」と手応えを語ってみせた。
しかし、安氏を支える国民の党は、いかんせん少数政党だ。与野党の2大政党に比べると、組織力では歯が立たない。だから、安氏が立候補を取り下げて、どちらかの候補に肩入れするのか、それともそのまま突き進むのかが焦点となっている。安氏の加勢を得ることができた候補は選挙戦で一気に優位に立てるだろう。
興味深かったのは、二つのことについてその可能性の有無を尋ねた時の李泰珪氏の反応だ。進歩政権の継続を目指す「共に民主党」の李在明氏との連携について尋ねると、「現在の文政権は、経済政策で失敗を重ね、南北関係も進展していない。いずれは歴代最悪の政権だったと言われるだろう。『より良い政権交代』がスローガンだ」とまで言い切った。「李在明氏とは100%、連携しない」というあけすけな宣言だ。
一方で、「国民の力」の尹氏との「野党候補一本化」の可能性については「関心がなく、気遣う余裕もない。時が来れば国民が整理してくれる」と語ってみせた。こちらは全否定というよりも、今は慎重というニュアンスで、「調整次第では、尹氏と連携するかもしれない」との印象を受けた。旧正月の休暇が2月初旬に明ければ、尹氏陣営との間で、水面下も含めたやりとりが加速しそうだ。
カギをにぎる若者たちの悩みとは
勝敗を握るもう一つの要素は、「MZ世代」と呼ばれる若者票の行方だ。MZ世代とは、1980年代から2000年代初めに生まれた「ミレニアル世代」と、90年代半ばから00年代に生まれた「Z世代」を掛け合わせた言葉。韓国では10代後半から30代の若年層を指す。不動産高騰や激しい受験戦争、就職難にもさらされる悩みの多い世代でもある。
ソウル市内の予備校講師、兪民海(ユ・ミンヘ)さん(33)の話は、その典型例と言えるだろう。1月15日に会社員の男性と結婚したばかり。実は、兪さん夫婦は交際中だった2年前、ソウル市内でマンション購入を計画していた。価格は約4億ウォン(約3900万円)だったが迷った末に見送った。
しかし、結婚が正式に決まってから、同じ地域で同じような物件を探してみると、最低でも8億ウォン(約7800万円)以上に跳ね上がっていた。このため、新婚生活は2年契約の賃貸住宅でスタートせざるを得なかったという。…
この記事は有料記事です。
残り1486文字(全文3486文字)