米軍配慮よりも「国民の命」を主張せよ 同盟の危機を招く検査不履行

太栄志・衆院議員
太栄志氏=野原大輔撮影
太栄志氏=野原大輔撮影

日米関係が大事だからこそ

 新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、日米同盟を揺るがしかねない事案が昨年末、発生した。

 昨年9月以降、米軍が日本への出国前と入国直後のPCR検査をしていなかったことが明らかになったのだ。コロナ対策として、米軍は「日本と整合的な措置をとる」としていたにもかかわらずだ。

 この米軍の対応は深刻な結果をもたらした。米海兵隊は12月17日、沖縄県にあるキャンプ・ハンセンに到着した複数の隊員から感染が確認されたと発表。その後、隊員だけでなく日本人従業員への感染も確認され、感染者は200人を超えた。

 沖縄県では、このクラスター(感染者集団)が影響してか、一時、全国最悪の水準で感染者数が増大することになってしまった。

 おりしも、国際環境は緊迫度を増している。中国やロシア、北朝鮮の軍事力拡大は日本に脅威をもたらし、台湾有事の危険性も指摘されている。日米関係の強化なくして太刀打ちはできない。日米同盟は日本だけでなくアジアの安全保障の根幹だ。同盟を強固にすべき時に来ているのに、このような問題が発生するのは極めて深刻だ。

 中国メディアからは「在日米軍が日本側の感染防止・抑制措置を完全に無視して出入りしたため、その努力は台無しになった」(人民網日本語版)など、日米離間のプロパガンダも出ている。

 現在は当然のことながら対応は改善されている。1月9日には、日米地位協定の運用などを協議する日米合同委員会が、期間限定で米軍関係者の外出を制限する声明を発表した。声明では自宅以外でのマスク着用義務、在日米軍の米国出国時と日本入国時の厳格な検査なども盛り込んでいる。合同委員会に検疫・保健分科委員会も新設されることになった。

 遅きに失しながらも日米両政府は対応を進めているが、今回の米軍の態度は信頼を損なうものだった。日米関係を重視する立場からさえも、現在も「(声明を)本当に守っているのだろうか」という不信感がつきまとい、「地位協定はこんなにもいいかげんなものだったのか」との疑念も出てきてしまった。

 しかも、日本国内すべての基地で検査は徹底されていなかった。米軍基地は各地にある。日米地位協定は沖縄の問題として語られることが多いが、この問題が沖縄だけのものではないことも気づかされたのではないか。私の選挙区には厚木基地とキャンプ座間の二つの米軍基地があり、有権者からは不安の声が寄せられている。

日米同盟の根幹は基地と地域住民の信頼関係

 選挙区内の基地で警備員として働く有権者から私に来たメールを紹介したい。

 「私たちには十分な感染対策用の防護具や消毒、アルコールなど配られていなく、検査を受けていない米国人が乗ったバスに入れられたりしています。今では検査をしていると思われますが、それでも海外から到着したばかりの方が乗るバスに同乗することに抵抗感があります。どのような感染対策用の備品があるとかも知らされていません」

 今回の事案を通し、基地を抱える地域の住民には、拭いきれない不信感を植え付けてしまった。基地で働く日本人従業員には基地内の感染状況すら適切に開示されていない問題もあったが、近年ではパワハラや賃金未払いなどの労務問題も多発している。

 基地と地域住民との信頼関係は日米同盟の根幹だ。信頼感があるからこそ基地を受け入れられるし、日本を守ってくれているという感謝の気持ちも芽生えるのではないだろうか。

 米軍を一方的に責めるつもりはない。米兵は命を張って任務を果たすため、母国から離れストレスある中で厳しい訓練を繰り返す一方で、地域に溶け込もうともしている。

 厚木基地とキャンプ座間でも、兵士たちが地域のボランティア活動や清掃活動などに積極的に参加している。私も一緒に汗を流すことがあるが、このような努力は高く評価しなくてはいけない。

 ただ、一度落ちてしまった信頼は、なかなか回復するのは難しい。…

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衆院議員

 1977年生まれ。衆院議員秘書、米ハーバード大国際問題研究所研究員などを経て、2021年衆院選で初当選。神奈川13区。立憲民主党。