尖閣で中国海警が「あおり行為」を続ける理由

小川和久・静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト
小川和久氏=北山夏帆撮影
小川和久氏=北山夏帆撮影

 日本国民の目が北京でのオリンピックやウクライナ情勢に奪われている陰で、尖閣諸島をめぐる中国の動きも活発化している。

 「中国が海警局に武器の使用を認める海警法を成立させてから22日で1年となった。海警に海軍のフリゲート艦20隻を移管する方針であることがこのほど判明、『第2海軍』化がさらに進む。中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島周辺や南シナ海では警戒が強まっている。南シナ海に面する広東省のテレビ局が1月上旬、海警にフリゲート艦が移管されると報じる動画をインターネット上に公開した。『釣魚島(尖閣の中国名)、南シナ海で法執行する海警は今後さらに強い威嚇力を持つ』と伝えた。主砲の76ミリ砲を備えたまま譲渡し『海警の実力は倍増する』と誇った。中国がこれまで尖閣周辺に送り込んできた海警艦船が搭載する機関砲のようなものに比べ大型となる。中国が実際に派遣し、日本が実効支配する現状の変更を一層強く狙う恐れがある(後略)」(1月23日付毎日新聞)

態勢の強化だけでは

 記事が出た直後、1月31日には沖縄県石垣市が東海大海洋学部の海洋調査研修船「望星丸」(2174トン)を使って行った環境保全のためのデータ収集を目的とする海洋調査に対して、中国海警局の船舶2隻が領海侵入し、調査船に接近するなど緊張が高まったが、海上保安庁の巡視船が間に入り、事なきを得た。

 このような動きに対して、海保の増強や海上自衛隊の海上警備行動との切れ目ない連携の強化などを求める声が、特に政府与党側から高まっている。

 むろん、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)の合計面積は世界第6位で中国をしのいでいる。この広大な海域で海洋権益を守るのは当然のことで、私はかねて海上保安庁について予算は現在の3倍の6000億円規模、人員と装備も2倍に強化すべきだと歴代の国土交通相や海上保安庁長官と協議してきた。

 しかし、それだけで日本の海洋権益が守られるわけではない。そのような国家戦略とは程遠いパッチワークを続けていては、日本のれっきとした国土である尖閣諸島を防衛できるかどうかさえおぼつかないことを知る必要がある。

背景にある日中漁業協定

 ここで思い起こすべきは、上記の調査船に対しても中国の海警船は「あおり行動」を見せるものの拿捕(だほ)や警告射撃をする動きに出ていないことだ。

 出漁中の石垣の漁船に対しても、追跡する動きを見せる以上の強硬姿勢は見られない。中国側の主張では、尖閣諸島周辺は中国の領海でもある。中国の領海法と海警法を使えば、警告に従って退去しない日本の調査船や漁船に対して強硬措置をとることは合法とされる。なぜ、そのような動きに出ないのか。

 その背景には、日中漁業協定の存在がある。日本と中国のEEZが重なる東シナ海では、北緯27度以南の日本のEEZについて棚上げとすることで合意、さらに、この海域を「EEZ漁業法適用特例対象海域」に指定し、中国漁船に対して漁業関係法令を適用していない。双方の公船は自国の漁船などを取り締まることができることになっている。

 その一方、尖閣諸島沿岸から12カイリ(22キロ)については棚上げの適用を除外し、双方の領海として扱うこととなった。これを見れば、中国の海警船側は日本の領海を航行している認識があることがわかる。それを無視して強硬手段に出れば、場合によっては日本と、そして米国を交えた国際紛争にエスカレートしかねない。それは、国際資本の撤退による中国経済の失速という「天安門事件の悪夢」を再び招きかねない。中国側としては100%自国の領海だという根拠がない限り、出たくても強硬手段に訴えられないのだ。

中国にある後ろめたさ

 同時に、うわべでこわもてに振る舞いながらも中国が後ろめたさを隠していない問題として、尖閣諸島の領有権…

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静岡県立大学特任教授 特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長 軍事アナリスト

 1945年生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣ではドクター・ヘリ実現に中心的役割を果たした。電力、電話、金融など重要インフラ産業のセキュリティ(コンピュータ・ネットワーク)でもコンサルタントとして活動。2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。『フテンマ戦記基地返還が迷走した本当の理由』『日米同盟のリアリズム』など著書多数。