キーワードは「人への投資」

古賀伸明・元連合会長
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古賀伸明氏=小川昌宏撮影
古賀伸明氏=小川昌宏撮影

 新型コロナウイルスも感染力の強いオミクロン株の登場で、感染者が劇的に増加しており、その対策は急務であるが、一方ではこれからの日本社会・経済のあり方も問われている。

 振り返ってみれば、1990年代にバブル経済が崩壊して以降、日本は「失われた30年」とも言われてきた。低成長やデフレ状況が続くだけでなく、所得格差の広がりや賃金の低迷、中間層の弱体化など多くの構造的ともいえる課題が顕在化した。

格差と低賃金、中間層の弱体化

 所得格差の拡大の背景には、バブル崩壊後、三つの過剰(債務、設備、雇用)の解消が叫ばれ、企業会計上のバランスシート調整のため、持ち合い株の売却や短期利益最大化をはかる事業再構築が行われた。わが国の上場株式全体でみると、今や株主の最大シェアは外国法人となっており、資本金10億円以上の大企業における配当金は、1997年度の6倍以上に達する。

 一方、従業員への分配は中期的に低下傾向であった。人件費の変動費化、総額人件費の抑制という観点から、いわゆる正社員の比率を下げ、有期・派遣・請負などさまざまな就労形態を活用する動きが強まった。

ピークは1997年

 わが国の個別賃金水準のピークは、1997年である。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」で見ると、一般労働者の平均賃金は平均年齢の上昇を伴いながらほぼ横ばいで推移しており、個別賃金で比べると1997年から2020年までの23年間に5ポイント以上、下がっている。

 非正規労働者比率の上昇など雇用形態の変化やこの間の物価上昇を加味した実質賃金指数の推移を見ると、10ポイント以上低下している。かつては世界最高であった日本の賃金は先進国の中で下位となった。1990年代後半からデフレが続いた一因は賃金の低下にもある。

高まる低所得者層の割合

 経済協力開発機構(OECD)の調査では、2020年の購買力平価・平均賃金は、日本は35カ国中22番目である。2000年から2020年の推移を見ると、日本は0.4%アップだが、他国のアップ率は米国25.3%、カナダ25.5%、ドイツ17.8%、韓国43.5%となっている。

 その結果、かつての「分厚い中間層」が薄くなり、低所得層のウエートが高まっている。厚労省の2019年の国民生活基礎調査では、年収は200万円台の層が最も多く、300万円台、100万円台が続く。100万~400万円が全体の4割近くとなり、全世帯平均552万円に届かない世帯は61%となっている。

経済停滞を招く低賃金

 経済社会の持続可能性と健全な民主主義の維持には、分厚い中間層の形成が重要な鍵を握る。世界のいくつかの国では、格差が拡大し、社会の分断が民主主義体制の危機を招いている。

 労働者の賃金水準が低下していくことは、人口減少も相まって総需要の縮小となって経済の停滞を招いており、労働者の賃金水準の引き上げなくして社会の安定的な発展はない。

能力開発費用も低下

 また、わが国では、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング、働きながらの訓練)によるスキルアップを主軸として、公的職業訓練と自己研さんなどを組みあわせて、人的資源の蓄積をはかってきた。

 しかし、経営の視点が短期化する中で、「人への投資」も弱まり、わが国の企業が能力開発にかける費用は、主要国と比べて格段に低く、経年で見ても1990年代後半の4分の1にまで下がっている。

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古賀伸明

元連合会長

1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。現在は連合総研理事長。