不思議の朝鮮半島

韓国大統領選「第一声」の現場で見えたもの

坂口裕彦・ソウル支局長
  • 文字
  • 印刷
ソウル市内の掲示板に貼られた李在明候補(左)と尹錫悦候補(右)のポスター=2022年2月19日、坂口裕彦撮影
ソウル市内の掲示板に貼られた李在明候補(左)と尹錫悦候補(右)のポスター=2022年2月19日、坂口裕彦撮影

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領に続いて、市民運動出身者の多い進歩系がさらに5年間、政権を維持するのか。それとも、かつての軍事政権の流れをくむ保守系が奪い返すのか。

 ソウルの最低気温は氷点下11度。少し外にいるだけで、手と足がじんじん痛む。骨身に染みるような冷え込みとなった2月15日、韓国大統領選の正式な選挙期間がスタートした。

 新型コロナウイルスのため、「隣人」でありながら、人々が自由に往来できない日本と韓国。だからこそ、激戦を展開する進歩系の与党「共に民主党」候補の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事(57)と保守系の最大野党「国民の力」候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長(61)の「第一声」に触れて、記録して、皆さんと共有する。現場にいるせっかくの特派員の強みを生かさない手はない。

 同僚の渋江千春特派員と手分けして、李氏と尹氏の「第一声」をカバーすることにした。演説内容はもちろん、会場や服装、仕草の一つ一つが、3月9日の投開票日に向けた選挙戦略を映し出すはずだ。

政治家の顔つきになった尹氏

 すっかり政治家の顔つきになっている。大改造だ。

 「国民の力」の支持者約1000人の大歓声に迎えられ、ソウル市中心部の光化門に現れた尹氏の引き締まった顔つきを見て、真っ先に感じたのはこのことだった。

 文政権の「検察改革」に反対し、検事総長の職をなげうった「反文政権の象徴」。しかし、政治経験はゼロ。昨年11月の記者会見で見た時には、大柄な体からのどかな雰囲気さえ漂っていた。メモを見ながら質問に答える場面が目立ち、こちらがハラハラした。3カ月前の姿との落差の大きさが、まるで別人物という印象を強くしたに違いない。

 目を引いたのは、党のシンボルカラーである赤色のジャンパーとマフラー。尹氏は約10分間の演説中、手元のメモにほとんど目を落とすこともなく、ひたすら文政権を批判し、「政権交代」の必要性を訴え続けた。

 「共に民主党政権は、国民を苦痛に陥れた。時代遅れの理念で、国民を分断した。権力を利用して、利権を手にした。ネロナンブル(自分がすればロマンス、他人がすれば不倫という造語で、身勝手な二重基準という意味)で一貫した。あり得ますか、皆さん!」

 不動産価格の高騰や雇用問題、新型コロナウイルス対応を例示して、「腐敗して、無能な政権を審判しよう」とも呼びかけた。核・ミサイル開発を加速する北朝鮮に対しても「挑発には断固として対処し、国民の生命と安全を守る」と述べて、「南北融和」を重視した文大統領との違いを際立たせた。

 尹氏は、権力が集中する青瓦台(大統領府)を解体して、権力を分散すると公約している。演説会場の光化門は、大統領執務室の移転先とする場所だ。尹氏は「権限は専門家と実力のある人に果敢に委任して、結果責任は完全に自分が負う。国民の意見に耳を傾け、対話する」とも語った。謙虚なリーダー像をアピールして、保守層以外にも支持を呼びかける狙いがあるようにも感じた。

「天性の人たらし」の感があった李氏

 対する李在明氏は、南東部にある第2の都市、釜山(プサン)を「第一声」の地に選んだ。ソウルからは高速鉄道KTXに乗って約2時間半。こちらには、渋江特派員が前日から現地入りしていた。

 引き込まれるような演説力。特に印象的だったのは、尹氏の4倍超となる45分間、メモなしのアドリブで、流れるように話し続けたことだったという。…

この記事は有料記事です。

残り2040文字(全文3456文字)

坂口裕彦

ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。