アフリカン・ライフ

ワクチン接種率0・3%の国で<上>警察からの思わぬ要求に見た政府への不信感

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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混雑するキンシャサの繁華街。マスクを着けている人は一部だ=コンゴ民主共和国で2022年1月29日、平野光芳撮影
混雑するキンシャサの繁華街。マスクを着けている人は一部だ=コンゴ民主共和国で2022年1月29日、平野光芳撮影

 いったい新型コロナウイルスに何人が感染し、本当はどのくらいの死者が出ているのだろうか。

 1月28日夜、南アフリカ・ヨハネスブルクからコンゴ民主共和国の首都キンシャサに向かう飛行機の中でそんなことを考えていた。コロナ禍が3年目に入っても、アフリカの感染状況を把握することは、まるで雲をつかむような話だ。それにはいくつかの理由がある。

 アフリカの保健・医療体制は他の地域と比べて大きく遅れていて、当初は新型コロナによって「膨大な犠牲者が出る」という悲観的な見方があった。ただ世界保健機関(WHO)の集計によると、人口13億人のアフリカでの累計感染者は約1100万人、死者は約25万人だ。一方、人口約1億2500万人の日本でコロナの死者は約2万2000人。アフリカでの人口あたりのコロナ死者数は統計上、日本と同水準にとどまり、欧米諸国と比べて死者の割合が桁一つ少ない。

 だが、アフリカでの統計を巡っては二つの見方がある。一つは、「アフリカ人はコロナに感染しづらい」という説だ。

 日本の感染者・死亡者が比較的少ないのは遺伝的な特徴や生活習慣に起因している可能性があるが、よく分かっていない。アフリカでもコロナの影響を和らげる要因が何かあるのかもしれない。人口のおよそ9割が50歳未満と若く、重症化しやすい人が少ないのは大きな強みだ。

 もう一つは「検査体制が不十分で、統計がまるで実態を反映していない」という点だ。

 例えば南アでは、コロナで約10万人の死者が確認されている。ところが、一定期間あたりの死者数が過去の平均的な水準から予測される人数をどれだけ上回っているかを示す「超過死亡」は、コロナ禍が始まってから累計で30万人にも上っている。多くの人が検査や診断を受けないまま、コロナで死亡した疑いがある。

 南アはデータがあるだけまだましだ。英BBCの調査では出生や死亡を行政機関に届け出る仕組みが機能している国は、サハラ砂漠以南のアフリカ本土では南アだけだった。南アはアフリカでは最も医療水準が充実している国で、他の国々では、超過死亡の人数がさらに多い可能性もある。ところがどこでだれがなぜ死亡したかという、日本の感覚では当たり前の情報を大半の国がきちんと把握できていないのだ。

 有力政治家のコロナ死者が多いのも気になる。エスワティニ(旧スワジランド)では2020年12月にドラミニ首相(当時52歳)が亡くなった。タンザニアやブルンジの大統領も、各政府が公式には否定しているがコロナで死亡したとの観測が出ている。ジンバブエでは閣僚級の4人が、南アでは最大都市ヨハネスブルクの市長がそれぞれ犠牲になった。政治家は一般的に年齢が高いものの、庶民よりは恵まれた検査、医療を受けられる。検査や治療が受けられない多くの庶民の感染は顕在化していないのかもしれない。

検問で警察に要求されたものは

 人口およそ9000万人のコンゴ民主も統計上、コロナ患者が極端に少ない。累計で8万6000人しかおらず、日本のピーク時の1日の数よりも少ないのだ。さらにこの時点(22年1月)でコンゴ民主のワクチン接種完了率は0・2%(同2月には0・3%)で、接種を行っている国としてはブルンジ(0・05%)に次ぐワースト2位だ。世界全体では、人口の半数以上が既に接種をしている。今回の旅の最大の目的は、なぜコンゴ民主で接種が進まないのかを探ることだった。

 コンゴ民主は、1997年までの国名「ザイール」で記憶している人も多いかもしれない。19世紀からベルギーの支配を受けたが、1960年に独立した。1990年代に入ると東隣のルワンダで起きた内戦、住民虐殺の影響で大量に難民が流入して治安が悪化した。ダイヤや金、電子機器に使われるタンタルなど豊かな鉱物に恵まれる一方で、資源を巡る紛争が絶えない。国の東部には武装勢力が実効支配する地域もあり、「平和以…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」