ネット中傷をなくすために メディアの責任は重い

安田菜津紀・フォトジャーナリスト
安田菜津紀さん
安田菜津紀さん

 ネット中傷対策のための法改正や議論が進められている。匿名の投稿者が特定されやすくなる改正プロバイダー責任制限法が2021年4月に成立し、22年秋までに施行される見込みだ。

現行制度よりは負担が軽減

 20年5月、男女がシェアハウスで共同生活を送るフジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた木村花さん(当時22歳)が、SNSでおびただしい誹謗(ひぼう)中傷にさらされた末、亡くなった。投稿の多くが、匿名のアカウントによるものだった。

 こうしたケースの場合、投稿者の特定のためだけに、IPアドレスなどの通信記録を保有するSNSの運営会社、氏名や住所などを把握している通信事業者それぞれに発信者情報開示を求める訴訟などを起こす必要があることが多い。

 改正後は裁判所がSNS運営会社と通信事業者に対し、同時に開示を命令する仕組みとなるため、被害者の負担は現行制度よりは軽減されることになる。

内容の深刻さと刑の軽さに乖離

 一方、特定された投稿者への対処にも課題が残る。21年3月、花さんのTwitterアカウントに「ねえねえ、いつ死ぬの?」などと投稿していた大阪府の20代男性に、科料9000円の略式命令が出された。ただ、これでは書き込み内容の深刻さと刑の軽さにあまりの乖離(かいり)があるのでは、といった声が相次いであがっていた。

 21年10月、古川禎久法相に法制審議会が答申し、現行の法定刑である刑事施設での30日未満の拘留もしくは1万円未満の科料に、1年以下の懲役・禁錮や30万円以下の罰金を追加するよう求めた。

 今後、どのような文言により厳しく対処する必要があるのか、また公権力による乱用や恣意(しい)的な運用のリスクなどを含め、十分な議論を深めていく必要があるだろう。

加害者に治療を

 花さんの母、響子さんは侮辱罪の厳罰化について「大切な第一歩」とする一方で、それだけでは不十分だと指摘する。「誹謗中傷の書き込みをしてしまうのは、自身の中に問題を抱えている人なのではないかとも感じています。侮辱罪に、再犯防止のためのカウンセリングも一緒につけてもらうのが一番ではないかと思います」

 響子さんは一部の投稿者との裁判で、カウンセリングを受けることを条件とする和解協議を進めているが、そのカウンセリング費用は響子さんの負担で行う予定なのだという。

 16年から、ストーカーの加害者に対しては、全国の警察が地域の精神科医らと連携し、医療機関での治療を働きかける取り組みが始まった。20年は882人に声をかけ、124人が受診している。誹謗中傷の投稿者に対しても、こうした働きかけや公的な支えが求められているのではないだろうか。

メディアの責任

 ただ、法改正議論と同時に、この問題を語る上で忘れてはならないことがある。21年12月16日、響子さんは弁護団と共に東京都内で会見を行い、フジテレビと制作会社を提訴する方針であることを明らかにした。

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フォトジャーナリスト

 1987年生まれ。認定NPO法人Dialogue for People 副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。著書に「故郷の味は海を越えて―『難民』として日本に生きる―」(ポプラ社、19年)、「写真で伝える仕事―世界の子どもたちと向き合って―」(日本写真企画、17年)、「君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―」(新潮社、16年)、「それでも、海へ―陸前高田に生きる―」(ポプラ社、16年)など。