宮家邦彦の「公開情報深読み」

ウクライナ侵攻 プーチン氏の戦略的判断ミスを「深読み」する

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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検問所に立つウクライナ民兵=キエフで、2022年2月26日、AP
検問所に立つウクライナ民兵=キエフで、2022年2月26日、AP

 2月24日、プーチン露大統領が対ウクライナ軍事侵攻に踏み切った。内外メディアが大統領の意図をあれこれ詮索する中、25日付の毎日新聞電子版は、同紙モスクワ支局長の率直かつ真摯(しんし)な現地報告を掲載した。支局長は「全面侵攻に踏み切った今、自分の見通しが間違っていたと正直に告白せざるを得ない」と前置きの上、こう述べている。

 「芝居がかった一連の経緯を振り返ると、軍事侵攻に向けたシナリオに沿った『プーチン劇場』を見せられてきたという思いが拭えない。おそらく本人の中では、だいぶ前から決断がなされていたのだろう。ただ、そこには現実から遊離した危うさも感じる」

 筆者はロシアの専門家ではないが、筆者の直感もこの現実離れした「危うさ」に限りなく近いものだった。これまでの一連の言動を振り返ってみれば、筆者はプーチン大統領が対ウクライナ戦争につき、四つの戦略的「判断ミス」を犯しつつあると思わざるを得ないのである。

 実際に、24日以前、日本国内ではロシアの「侵攻はない」、キエフ占領の「可能性もない」と見る専門家が多かった。当初これら「侵攻懐疑論」者の判断は極めて合理的かつ論理的に聞こえた。それでも、筆者は途中からロシアのウクライナ「軍事侵攻」はあり得ると思うようになった。その最大の理由は、プーチン氏が「誤算する」可能性を感じ始めたからだ。

 おいおい、あの冷徹な現実主義者プーチンが「判断ミス」を犯したって? それは結果論だろう、との批判もあろう。しかし、筆者がプーチン大統領の「誤算」に注目するのは、こうした「誤算」は、プーチン氏だけでなく、今後、中国の習近平国家主席など他の政治指導者が繰り返す恐れがあると思うからだ。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

誤算1:ウクライナ軍・義勇兵の善戦

 侵攻開始前、誰もがロシア軍は圧倒的に強いと思っていた。米国の情報機関も「キエフは数日で陥落する」可能性に言及していた。ところが、本稿執筆時(2月27日)までの公開情報を分析した米シンクタンク(ISW)によれば、ロシアの侵攻計画はプーチン大統領が望むような「電撃作戦」には程遠かったようだ。これがプーチンの第一の判断ミスである。

 2月26日付ISWの分析は次の通りだ。

 ■ロシアは、機械化攻撃と空挺(くうてい)攻撃でキエフを包囲し孤立させる計画に明らかに失敗した。ロシア軍は現在、ドニエプル川西岸の狭い前線と北東の広い前線に沿って、機械化車両でキエフへよりストレートに進撃している。

 ■ウクライナ側の抵抗は依然として強く、特にキエフに向けたロシア側の作戦は調整と実行が不十分で、キエフとハリコフの両方面でロシアは大きな失敗を被った。ウクライナ北東部のロシア軍は、ISW が以前予測した通り、計画の不備と場当たり的な指揮系統により、士気と補給の問題が深刻化している……。

 さらに、この点については興味深いツイートを見つけた。書いたのは現欧州議会議員のリホ・テラス(Riho Terras)元エストニア軍司令官だ。もちろん、この内容が全て正しいかどうかは分からないが、上記ISWの分析をある程度補強する情報だと感じた。要するに「ロシア軍は準備不足で、十分な攻撃態勢にはない」というのだが、まずは全文をお読みいただきたい。いつもの通り、【】内は筆者のコメントである。

 ①ウラル山脈のプーチンの隠れ家での会合に関するウクライナ人将校からの情報。…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。