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官邸に女性の政治家がいる意味

森雅子・首相補佐官
森雅子氏=宮本明登撮影
森雅子氏=宮本明登撮影

 岸田政権で女性活躍を担当する首相補佐官が初めて置かれ、2021年11月に就任した。直近の約10年、女性の首相補佐官はいなかった。

 首相官邸に現在、国会議員は首相、官房長官、官房副長官、首相補佐官の計8人がいる。日本の人口の半分が女性なのに、この10年、官邸の国会議員が男性だけだったのはとても怖いことだ。

 女性が入るということは、女性の声を反映させるだけにとどまらず、男性のためにもなる。つまり国民全体のためにもなる。諸外国の研究で明らかなように、女性議員と男性議員では、重視する政策のプライオリティー(優先順位)が違う。

 女性議員は子供、人口問題、女性、家族、社会福祉などの政策、男性議員は外交、防衛、経済政策などへの関心が高い。国会は多数決で物事が決まるため、予算配分や審議される法案は、数が多い男性議員が重視する分野の比重が高くなる。これは客観的に分析された結果だ。

 (こうした影響で)女性議員の関心が高い子供や家族、教育関連の予算は、主要7カ国(G7)の中で日本は少ない。

 少子化になったことは自明の理かもしれない。予算をかけてみて、それでも駄目だったらまた考えればいい。まず諸外国並みに予算をあて、法律を作るところからやるべきだ。女性の意見を政治の場に生かすことは重要であり、岸田文雄首相が官邸に女性の政治家を入れたことは大きな意義がある。

 私の秘書官には、子育て中の官僚を男女1人ずつ起用した。夜に残って仕事することはないけれど、工夫すれば官邸の仕事は完璧にこなせる。女性活躍関連では、女性の秘書官から入ってくる情報や意見の方が男性の秘書官のものより良い。

 コロナ禍で「保育園のママが今大変だ」と女性秘書官からもたらされた情報を首相に伝え、濃厚接触者の保育士の自宅待機期間の短縮につながった。国民の「お困りごと」をトップの政策に反映させることが理想だ。

 女性のキャリアアップは、上司が気をつけないと見落とされてしまう。国家公務員の2021年度の女性の採用割合は過去最高の37.0%になった。しかし、中央省庁トップの事務次官はほとんどが男性で、女性はそこまで昇進していけない。女性特有のキャリアプランを作らないといけない。今のキャリアプランは男性目線の、男性による男性のためのプランだ。

 日本は、(世界経済フォーラムが21年に発表した男女格差を測る)「ジェンダーギャップ指数」で156カ国中120位だ。教育と健康の分野はトップレベルだが、政治と経済の分野が低い。経済分野で最も深刻なのが男女の賃金格差だ。女性はキャリアアップの途中で壁にぶつかる。結婚、出産、夫の転勤、介護。でも、これらは本当は、男性も一緒に背負うべきものだ。

 働き盛りの女性が、いろいろな仕事に挑戦して経験を積みたいときに子供ができて、自分の時間が10分の1ぐらいになってしまう。仕事か家庭かで、すごく悩む。悩むのは男性も同じはずなのに、この国では女性だけがいつも悩んで、負担を背負う。

 その後のキャリアプランにもマイナスの影響を及ぼす不平等がある。経済分野では特に賃金格差が、指数の順位を引き下げている最大の要因の一つだ。賃金格差をなくすことが、首相が掲げる「新しい資本主義」の目玉の一つだ。

 女性一人一人の生活の悩みを首相の頭に入れていかなければならない。男性社会で生きてきた首相は、女性活躍をやろうと思ってくれたが、具体的に何をやるのかが思いつかない。

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首相補佐官

 1964年生まれ。弁護士。2007年参院選で初当選。少子化担当相、法相、自民党女性活躍推進特別委員長などを歴任。参院福島選挙区、当選3回。自民党。