ウクライナ問題を解決できるのか 国際秩序は崩れゆくのか

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
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田中均氏=根岸基弘撮影
田中均氏=根岸基弘撮影

 ロシアのウクライナ侵攻は国際秩序に深刻な打撃を与えた。国連安保理の常任理事国であり核保有国のロシアが19万の兵力をもってウクライナに侵攻した。これは武力による侵略であり、明々白々、国際法に違反する行為だ。

 ロシアを唯一止められる力を持ち、秩序を維持するうえで「世界の警察官」の役割を果たしてきた米国は、ロシアがウクライナを侵略する確かな情報を持ちながら、止めることは出来なかった。

 またプーチン大統領は、核をちらつかせつつ北大西洋条約機構(NATO)をけん制し、作戦を遂行しようとしている。

 NATOはウクライナ上空の飛行禁止ゾーン設置について「ロシアと直接交戦する危険があるから」とウクライナの要請を断ったと伝えられる。

 米国やNATOが直接戦闘に参加すれば、第三次世界大戦になってしまうとの恐れは誰しも持つところだ。NATO諸国はウクライナに武器の供給を続け、ウクライナに対して間接的に支援をし、国際社会は「かつてない強力な経済制裁」でロシアにプレッシャーを与えようとしている。

 しかしどんな強力な経済制裁を実施しようとも、キエフが陥落し、ウクライナの主要都市もロシアの手に落ちるのは時間の問題なのだろう。犠牲をこれ以上大きくしないよう停戦を実現し、政治的解決を図らなければいけないが、その責任はロシアとNATOにある。

 ロシアのウクライナ侵略と、これを止められなかったこと自体が今後の国際秩序を考えるうえで重大な意味を持つし、政治的解決が図られない場合には、既存の国際秩序は崩壊の危機にひんすることになる。

米国の国際秩序維持の主導的役割はもう望めないか

 これまでの行動を見ると米国は、第二次大戦後に作られた体制を守ることが米国自身の利益であるとして、平時に欧州及びアジアに相当な兵力を前方展開し、秩序を破ろうとする国に対する抑止力を維持してきた。そして秩序が破られた時、米国は軍事的に行動した。

 冷戦構造が固まりつつある時期の朝鮮戦争やベトナム戦争は社会主義陣営の拡張を止める戦争と見られたが、冷戦終了後の米国の戦争は普遍的価値に基づく国際秩序を護るための戦争であった。

 イラクのクウェート侵略を押し戻すための湾岸戦争、911後のテロとの戦いを標ぼうしたアフガニスタン戦争、大量破壊兵器の拡散を防止するとしたイラク戦争などは同盟国との集団的自衛措置という面はあるが、どちらかというと普遍的価値に基づく秩序維持の戦争だった。

 そして、この間、ソ連(ロシア)の侵略的行動には一貫して軍事介入を避けてきた。1979年のソ連のアフガン侵略や2014年のロシアのクリミア侵攻などで米国が軍事介入をすることはなかった。

 そのような意味で今回も、そもそも米国の軍事介入はあり得ないことだったのかもしれない。

 しかし、今回のウクライナ問題は従来とは少し性格が異なるように思う。ウクライナはNATOや欧州連合(EU)に入る意思を明確にし、ロシアはNATOの東方拡大への反対を掲げてきた。要するにロシアは「ウクライナのNATO加入はロシアの安全保障上の障害になるので、これは認められない」としてウクライナを軍事力で制圧することを米国に示唆してきたのである。

 電撃的に侵攻したわけではなく、バイデン大統領が数日前から述べていたようにロシアはあらかじめ侵略意図を明らかにしてきたのだ。それを、「ウクライナは主権国家であり米国がNATO不加入を保証できない」といった強硬論ではねつけ、同時に米国の軍事介入はないと明言し、結果的に侵攻を許してしまった。

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田中均

日本総合研究所国際戦略研究所理事長

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。2021年3月よりTwitter開始(@TanakaDiplomat)。毎日リアルタイムで発信中。YouTubeチャンネル(@田中均の国際政治塾)。