少子化対策にこども家庭庁は何をすべきか

八代尚宏・昭和女子大特命教授
  • 文字
  • 印刷
閣議に臨む岸田文雄首相(左)と野田聖子少子化担当相=首相官邸で2022年3月11日、竹内幹撮影
閣議に臨む岸田文雄首相(左)と野田聖子少子化担当相=首相官邸で2022年3月11日、竹内幹撮影

 岸田政権が、最優先で取り組むべき課題のひとつとして少子化対策がある。日本の人口はすでに2008年をピークとして、長期的な人口減少期に突入している。

 過去20年間で増えているのは高齢者だけで、20歳から64歳の働き手人口は、約1000万人も減少している。このままでは日本の人口の際限なき減少を防げず、国内市場の縮小が経済の長期停滞のひとつの要因ともなっている。

 日本の出生率(女性が一生の間に産む子ども数)は、人口を安定させるために必要な2.1の水準を1975年以降は下回っており、最近時点では1.4の低さとなっている。何が人口減少をもたらしている主な要因なのだろうか。

 夫婦の希望する子ども数と、予定している子ども数は、おのおの2.32人と2.01人で、適切な政策が行われれば出生率の回復は十分に可能といえる。ここで岸田政権は少子化政策の具体的な内容として、不妊治療の保険適用の範囲拡大、保育の受け皿の整備、男性の育児休業取得促進等をあげている。

 また、総合的な子ども政策の司令塔として、こども家庭庁を23年度に設立し、縦割り行政の中で進まなかった子どもへの虐待防止や、地域における障害児への総合支援体制の構築を図るとしている。

 いずれも、個々には大事な政策だが、仮に、それらが全て実現したとして、果たして出生率の低下に歯止めがかけられるのだろうか。

少子化の主因は未婚化

 少子化というと、平均的な家庭の子ども数の減少というイメージがある。このため教育費をはじめとする子育ての費用が高いために子どもを産めないという声に引きずられ、幼児教育無償化等の政策が行われてきた。これは選挙対策として有効かもしれないが、肝心の出生率の低下には歯止めがかからない。

 実は子育ての費用としてもっとも大きなものは、そのために母親が就業を続けられずに失う賃金所得である。これは女性の賃金水準に比例して高まっている。このため女性の就業継続と子育ての両立への支援が、経済の活性化と少子化対策の双方で必要となる。前回も触れたように、高齢者の介護保険に匹敵する「子ども保険」の創設で、両立支援のための独自の財源を確保するような本気度を示す必要があろう。

 子育て家族への支援と並んで重要な点は、まず家族を形成するための支援である。日本では婚外子の比率が2%程度に過ぎないため、出生率は、ほぼ夫婦当たりの子ども数と婚姻率で決まる。最新の結婚出生率は、15年の1.94で40年前と比べて0.25ポイントの低下であり、この間の出生率の低下幅の半分に過ぎない。残りの半分は婚姻率の低下、つまり未婚者の増加による。

 これについて厚生労働省は、出生率の低下は女性の高学歴化による晩婚化が主因で、いずれ回復すると楽観していた。未婚女性への意識調査で、9割が「いつかは結婚するつもり」との答えが、その根拠であった。

 しかし、女性の結婚願望は「良い相手がいれば」という条件付きであり、その条件は女性の高学歴化と経済力の向上にともない、年々高まっていく。20年の女性の平均初婚年齢は29.4歳に達しており、東京都では30歳を超えている。政府の少子化対策は、いずれも結婚した女性を対象としたもので、この未婚女性の結婚を支援する対策にはほとんどなっていない。

 これに対して、結婚への奨励金のような乏しい発想ではなく、現代の日本女性が直面する「結婚のリスク」を軽減するための制度改革が本丸である。過去の女性の経済力が低かった時代には、良い相手との結婚は、豊かな生活を実現するための大きな機会であり、そのための少々の犠牲にはこだわらなかった。しかし、女性が男性と同じように働き、収入を得る時代には、結婚による所得増加よりも、逆に結婚で失うもののコストの方が大きくなる。

この記事は有料記事です。

残り1356文字(全文2911文字)

八代尚宏

昭和女子大特命教授

 1946年生まれ。経済企画庁、上智大教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大教授などを歴任。著書に「日本的雇用・セーフティーネットの規制改革」(日本経済新聞出版)「脱ポピュリズム国家」(同)「シルバー民主主義」(中公新書)など。