北方領土巡る交渉中断 ロシア外務省声明を読む

佐藤優・作家・元外務省主任分析官
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佐藤優氏=久保玲撮影
佐藤優氏=久保玲撮影

 3月21日、ロシア外務省は声明を発表し、日本との平和条約交渉を継続するつもりがなく、北方領土へのビザなし交流を停止するなどの措置をとるとした。

 特に深刻なのは、ロシアが平和条約交渉の継続を望まないという立場を鮮明にしたことだ。北方領土問題を解決して平和条約を締結するというのは、1956年以降、日本政府が一貫して取ってきた立場だ。

日ソ共同宣言と矛盾する可能性

 日ソ関係の基礎を定めた56年の日ソ共同宣言の9項前段には次の内容が記されている。

 <日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する>

 日ソ共同宣言は、宣言という名称であるが両国の国会によって批准された法的拘束力を持つ国際約束だ。ロシアはソ連の継承国なので、日ソ共同宣言に拘束されている。プーチン氏は、2000年に大統領に就任して以降、日ソ共同宣言の有効性を何度も明示的に確認している。今回のロシア外務省声明は、ロシアの対日政策を抜本から変化させる性格を帯びている。この声明の立場が、日ソ共同宣言と矛盾する可能性がある。

「現在の条件において」

 興味深いのはこの声明で<ロシア側が現在の条件において(v nyneshonikh usloviyakh ヴ・ヌィネシュニフ・ウスロヴィヤフ)、(中略)平和条約に関する日本との交渉を継続することを望まない>と述べていることだ。「現在の条件において」とは、裏返していうならば条件が変化すれば平和条約交渉の席にロシアが再び戻るというニュアンスがある。

 このシグナルを正確に読み取り、日本側から平和条約交渉を拒否しないことが重要だ。平和条約交渉を打ち切ると、ロシアと日本の関係は、武力衝突のリスクを含め緊張することになる。

 さらに重要になるのは、この外務省声明に記されていない事柄だ。元島民の北方領土への墓参が86年以降、ビザなしで行われているが、ロシア外務省声明は墓参を停止するとは言っていない…

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佐藤優

作家・元外務省主任分析官

 1960年生まれ。同志社大大学院博士前期課程修了。神学修士。外務省入省後、モスクワの日本大使館に勤務。著書に「自壊する帝国」「私のマルクス」など。毎日新聞出版より「佐藤優の裏読み! 国際関係論」を刊行。