ウクライナ侵攻で打ち砕かれた幻想 対ロシア外交の長期戦略を考える

渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員
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破壊されたロシア軍の戦車の横を歩く領土防衛隊の隊員たち=ウクライナの首都キーウ近郊のブチャで、2022年4月6日、ロイター
破壊されたロシア軍の戦車の横を歩く領土防衛隊の隊員たち=ウクライナの首都キーウ近郊のブチャで、2022年4月6日、ロイター

 日本の対露外交はどうあるべきか。ロシアによるウクライナ侵攻後の今、答えは単純ではない。今後の国際秩序と日米同盟の長期戦略をにらんで検討する必要がある。

大国同士の戦争という悪夢

 ウクライナ侵攻は世界に衝撃を与えた、とよくいわれるが、何が衝撃だったのか。冷戦終結後、ロシア、中国、米国のような核兵器を持つ大国同士の戦争は考えられない、という幻想が打ち砕かれたことだ。

 現実には、米国とイラクの戦争(2003年)、ロシアとジョージアの戦争(08年)など、冷戦終結後も多くの戦争があったが、今回のウクライナ侵攻は、米国による再三の警告を無視して行われ、核を保有する米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国(英仏は核保有国)とロシアの間で緊張が高まり、現在、一歩間違えば、第三次世界大戦を引き起こしかねない悪夢に近づいているところが衝撃的だ。

ロシアだからこそ外交が必要

 プーチン大統領が統治するロシアはこれまでも多くの問題を抱えていた。野党指導者のナワリヌイ氏への毒殺未遂事件と懲役9年の判決による投獄など、選挙は行われても国内の民主主義が後退してきた。

 国際的には、シリアのアサド独裁政権を支持してロシア軍が内戦に介入し、1160万人以上の難民という今世紀最悪の人道的悲劇を作りだした責任もある。14年にはウクライナの反政府勢力を支援して内戦に介入し、西側から経済制裁を受けてきた。

 日本はロシアと、北方領土問題の解決と平和条約締結を目指して交渉を行ってきたが、そのようなロシアと外交を行うべきではない、というのは間違いだ。外交というのは、むしろ戦争や領土係争を起こしかねない相手であれば、なおさら日本の安全を守るためにも交渉チャンネルを確保しておく必要がある。国境を接する隣国であればなおさらだ。

経済制裁で段階的に圧力

 現在、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどにおいて、ロシア軍による大量の市民の殺害が明らかになり、米国は同盟国と協議して、ロシアへの新規投資の禁止、プーチン大統領らの家族や最大手銀行のズベルバンクを対象に指定する追加制裁を発表した。

 このような制裁が効力を発揮するのは外交や経済関係を持っているからともいえる。ロシアへの西側の制裁は段階的なものであり、追加制裁の余地を残しながらロシアに圧力をかけていることも忘れてはいけない。

 そもそも、経済制裁という手段は、自らの経済にも痛みを伴うものだが、それにより自国の経済や市民生活に深刻な打撃を与えるものであれば持続的ではなく、効果的なものではない。現在の西側の対露制裁は、ロシアとの経済関係を完全に遮断するものではない。直近の米国の追加制裁の発表でも、人道上および経済的に必要な食糧やコミュニケーションなどでのロシアとの関係を維持する姿勢も示し、自国や世界の経済に配慮をする姿勢も明確にしている。

ロシアに教訓

 日本が欧米と足並みをそろえ、ウクライナの停戦に向けて経済制裁を行っていくべきであることは、国際社会の秩序に責任を持つべき世界第3位の経済大国として当然だ。一方で、欧州も日本も、依然としてロシアからの天然ガスや原油の輸入を継続している。これは、今後のさらなる追加制裁の「のりしろ」となる部分でもあり、日本経済の持続的な成長のためにそれを維持していくことは、国際社会の動きと相反するものではない。

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渡部恒雄

笹川平和財団上席研究員

1963年生まれ。米ニュースクール大修士課程修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員などを経て現職。著書に「2021年以後の世界秩序」など。