風考記

「黒人女性初」の期待と不安

西田進一郎・北米総局長
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バイデン米大統領(左)とハリス副大統領(右)の前で演説するケタンジ・ジャクソン氏=米ワシントンのホワイトハウスで2022年4月8日、AP
バイデン米大統領(左)とハリス副大統領(右)の前で演説するケタンジ・ジャクソン氏=米ワシントンのホワイトハウスで2022年4月8日、AP

 春らしく、からりと晴れた首都ワシントンの4月8日昼過ぎ。ホワイトハウスのサウスローンで、バイデン大統領らをバックに演説する一人の女性の言葉に胸を打たれた。米連邦最高裁判事に黒人女性として初めて承認されたケタンジ・ジャクソン連邦控訴裁(高裁)判事だ。

 「黒人女性が米国の最高裁判事に選ばれるまでには、232年の歳月と115人の任命を必要としました。しかし、私たちは成し遂げました」

 ジャクソン氏の祖父母は、小学校程度の教育しか受けられず、両親は人種的に隔離された学校に通っていた。演説の後半で「私の家系では『隔離』から連邦最高裁に至るまで、たった1世代で成し遂げました」と語ると、大きな拍手が起きた。

長く続いた「白人男性だけ」

 1789年に設置された最高裁の判事は長らく白人男性だけだった。115人のうち白人ではないのは3人だけ。うち2人は黒人男性で、1967年に黒人として初めて就任したマーシャル氏と現職のトーマス氏。もう一人はヒスパニック系で現職のソトマイヨール氏だ。女性は81年に就任したオコナー氏から数えて、ジャクソン氏で6人目になる。

 米国では、連邦最高裁の位置づけは極めて高い。「移民と多様性の国」であるだけに「国民を束ねる基盤は憲法」との意識が強く、その解釈を示す最高裁が社会のあり方に大きな影響を与えるからだ。

 判事は首席(長官)を含め9人。大統領が指名して上院で承認されれば、自ら辞任する場合などを除き、終身の任期が確保されている。何十年にわたって大きな影響力を持ち続けるため「国民の大半は現役9人の名前はほとんど覚えている」と言われるほどだ。日本では考えられないことだろう。

政治闘争の主戦場

 ところが、その人事は党派対立の激化を反映し、政治闘争の「主戦場」になっている。与党・民主党を支持するリベラル層、野党・共和党を支持する保守層の対立は、同性婚や人工妊娠中絶、銃規制やマイノリティー(人種的少数者)の投票権確保など広範囲に及ぶ。それらについて最終判断を下すのが最高裁だ。であれば、その構成を自分の党に有利にしようという思惑が働く。

 ジャクソン氏の経歴は、民主党だけでなく、共和党からも申し分ないとの声が出ていた。しかし、上院の公聴会では共和党保守派から質問攻めにあった。7日に行われた上院本会議での採決は、民主党は50人全員が賛成したのに対し、共和党は50人のうち賛成したのは中道派の3人だけ。かろうじて「超党派」で承認された形になったが、党派対立の深刻さを改めて認識させられた。

 もちろん今回の人事が、民主党の上院トップのチャック・シューマー院内総務が語るように「米国史における偉大な瞬間の一つ」であることは間違いない。だが、ジャクソン氏を待っているのはいばらの道だ。

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西田進一郎

北米総局長

 1975年生まれ。97年に入社し、岡山、神戸などの支局や東京社会部を経て2005年から12年まで政治部。その後ワシントン特派員や政治部デスク、政治・安全保障担当の論説委員を経て22年4月から現職。