中高年社員を生かす「週休3日制と社会人大学院」

八代尚宏・昭和女子大特命教授
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社会人大学院ではミドル世代が増えてきた=東京都港区のKIT虎ノ門大学院で2017年12月19日撮影
社会人大学院ではミドル世代が増えてきた=東京都港区のKIT虎ノ門大学院で2017年12月19日撮影

 選択的週休3日制を打ち出す大手企業が増え、本格的導入への機運が盛り上がっている。これは単なる休暇の増加ではなく、社員の人的資本の質向上で生産性を向上させる手段である。

 もともと日本の企業は教育訓練には力を入れてきたが、その主要な中身は会社内での業務上の訓練であった。職種別労働組合の枠に捉われて、狭い範囲内の訓練しか受けていない欧米の社員と比べて、日本の企業では頻繁な配置転換を通じて、多様な職種を経験することで形成される熟練の質は高い。

 しかし、製造業が主体の産業構造で優位な働き方は、情報化社会では逆に足かせとなる面もある。特定の企業内で長い教育訓練を受けるだけでは、急速な情報化やグローバリゼーションが進む現代の経済社会への対応は困難となる。

 また、社員の高齢化が進む中で、70歳までの雇用義務に応えるためには、多くの社員の再訓練(リスキリング)が不可欠となる。そのためには社外での教育や仕事経験も必要となる。

副業・兼業の活用

 週休3日制の導入には、1日分の労働時間削減に見合った給与の引き下げの手法もあるが、それでは社員の負担が大きすぎる。現行の週5日の労働時間分を4日間に圧縮し、同じ給与のままでの10時間労働とするには、既存の季節的な業務の増減に対応した変形労働時間の仕組みを使えば、法改正の必要性もない。1日だけでも往復の通勤時間を減らし、毎週3日分のまとまった時間を確保できれば、選択した社員のメリットは大きい。

 平日の労働時間が長くなれば労働強化になるという見方もあるが、毎日2時間程度の勤務時間の延長であれば通常勤務の範囲内であり、会社にとっては、その分の残業手当の節約ともなる。何よりも毎週の勤務日数の減少で、1日単位で集中して働くインセンティブが期待できる。

 会社としては、週休3日制を、社員の労働生産性の向上にどう結び付けられるかが大きな関心事である。専門的な技能を生かした副業や兼業を行うことで、スキルの向上を図りつつ、収入増を図れれば、本人だけでなく、その会社にとっても利益となる。副業を通じて能力の高い社員が退社する懸念に対しては、市場で評価される能力は自社内でも有用であり、それに見合った処遇の改善をすれば良い。また、他社の有能な社員を、雇用保障なしの副業で活用することもできる。

シルバー市場の可能性

 これまで副業・兼業は、現在の会社と同じ分野での技能の活用が主であった。しかし今後は、成長が見込まれる異業種への転換への視野も見えてくる。

 現在の不透明な日本経済の先行きで、唯一、確実なものは人口動態の変化である。政府にとって、急速な高齢化社会での社会保障負担増は深刻な問題だが、民間企業にとっての「シルバー市場」は、大きな成長分野である。75歳以上の高齢者は、2020年から30年までで430万人も増え、その増加分の多くが首都圏に集中している。

 例えば、介護サービス産業は、介護保険の報酬体系に縛られ、労働者の賃金も低いというマイナスイメージが大きい。しかし、その顧客である今後の高齢者は、過去の高い経済成長期に資産を蓄えた、豊かな「団塊の世代」である。これは人口減少で市場規模が縮小する、他の多くの産業分野から見れば、きわめて有望ではないだろうか。

社会人大学院での学び直し

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要となる変化の大きな時代では、会社内で学べる余地は少ない。もっとも、中高年社員が、パソコンの統計ソフトの活用のような秘書業務をその場限りで学んでも、若手社員には太刀打ちできない。…

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八代尚宏

昭和女子大特命教授

 1946年生まれ。経済企画庁、上智大教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大教授などを歴任。著書に「日本的雇用・セーフティーネットの規制改革」(日本経済新聞出版)「脱ポピュリズム国家」(同)「シルバー民主主義」(中公新書)など。