プーチン氏が得た「誤った教訓」とウクライナ戦争の出口

東大作・上智大教授
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ロシア兵に殺害された領土防衛隊の隊員を埋葬中に天を仰ぐ男性=ウクライナの首都キーウ郊外のブチャで2022年4月13日、AP
ロシア兵に殺害された領土防衛隊の隊員を埋葬中に天を仰ぐ男性=ウクライナの首都キーウ郊外のブチャで2022年4月13日、AP

 第二次世界大戦後の軍事紛争は「内戦」が圧倒的に多い。国家間の紛争は減少し、年ごとの統計では1970年以降は5件を超えることはなく、冷戦後は2件を超えることはほとんどなかった。

 今回のロシアによるウクライナの侵略に私は強い衝撃を受けた。国連安全保障理事会の常任理事国がこうしたあからさまな侵略をしたことは驚きで、今後の国際秩序に極めて大きな影響を及ぼす世界史的な事件だ。

目的がはっきりしない

 私が「平和構築」や「和平調停」を研究しはじめて最初に集中的に調査したのはイラクとアフガニスタンだった。両国とも最初から内戦が始まったわけでなくて、米国という大国が侵攻した結果、内戦になった。そこで分かったことは、大国が他国に侵攻して自国に親和的な政権、もしくは傀儡(かいらい)政権を作ることは難しいということだ。

 今回のロシアの戦争目的が何なのかは実はまだはっきりしていない。当初はゼレンスキー政権を倒して親ロシア政権を作ることと見られていた。しかしウクライナ側の予想外の攻勢でそのことはいったん諦めたようだ。

 現在は親ロシア派住民の多い東部のドネツク、ルガンスクの2州と2014年に侵攻した南部のクリミア半島とをつなげて実効支配することが目標になっている。プーチン大統領はもともと戦争目的を明確にしていなかったので、この実効支配が実現したら「勝利宣言」をして矛を収めようとするかもしれない。

世界大戦のリスク

 ただ、ウクライナ側としては、何の理由もなく一方的に侵略されて領土を奪われることは断固として受け入れないだろう。そうなるとこの戦争が長期化する可能性が高くなる。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長も米議会公聴会でこの戦争について「数年単位で続くだろう」と述べている。

 今回の戦争は「核大国・ロシア」が起こしたものであり、一つでも間違えれば北大西洋条約機構(NATO)対ロシアによる世界大戦になるリスクが常にある。ロシアが1発でもミサイルをNATO加盟国のどこかに撃ち込んでしまえば、米国のバイデン大統領は「軍事介入する」と明言している。

 またロシアが化学兵器や生物兵器を使う可能性も指摘されている。その意味で、この戦争はロシア側が「理性」を維持し続けることを祈りながら行われている面がある。仮にこれらの兵器が使用される事態になった時、NATOが軍事介入に踏み切る可能性もあり、それで世界大戦になるリスクもある。戦闘が続く中で世界大戦のリスクに人類が直面するのは、第二次大戦以降、初めてのことだ。

誤った教訓

 プーチン氏が今回の侵略に及んだ背景には、15年にシリアに対して実施した大規模な軍事介入の経験があるのかもしれない。アサド政権は11年の「アラブの春」以降、反政府勢力に押されて国内の支配地域を縮小させていくが、同国内に軍港を持つロシアはアサド政権維持を目的に介入。2年ほどで同政権の支配地域を劇的に回復させた。

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東大作

上智大教授

 1969年生まれ。NHKディレクターとしてNHKスペシャル「我々はなぜ戦争したのか ベトナム戦争・敵との対話」(放送文化基金賞)などを企画制作。退職後、カナダで博士号を取得し、国連アフガニスタン支援ミッション政務官、東京大准教授、国連日本政府代表部公使参事官などを経て現職。著書に「平和構築」(岩波新書)や「内戦と和平~現代戦争をどう終わらせるか」(中公新書)など。