憲法への洞察がない政府の皇族数確保案

野田佳彦・元首相
  • 文字
  • 印刷
野田佳彦氏=幾島健太郎撮影
野田佳彦氏=幾島健太郎撮影

十分な考察が感じられない

 皇室の在り方に関する政府の有識者会議の報告書が今年1月に政府から国会に示された。しかし、報告自体が非常に遅い上、皇位継承の議論を「機が熟してない」として棚上げする内容であり、不十分かつ国会軽視と言わざるを得ないものだった。

 一方で「皇位継承の問題と切り離して皇族数の確保を図ることが喫緊の課題」とし、皇族数の減少への対策については3案を記載した。しかし、これらも十分に考察したとは言えない内容だ。

 3案とは、①女性皇族が結婚後も皇室に残る案②皇統に属する男系男子が養子縁組して皇族に復帰する案③2案で皇族数を確保できない場合、皇統に属する男系男子を「法律により直接」皇族に復帰させる案――というもの。

 ①については、配偶者と子は皇族とならず、②については、対象を1947年に皇籍を離脱した「旧11宮家」の子孫が考えられるという。また、皇族に復帰する本人には皇位継承資格がないとしている。

憲法問題がある①②案、論外の③案

 3案のうち③は論外だ。法律化するということは、民間で生活してきた当事者の意思は全く考慮されない。また、現在の皇族と何ら家族関係を有しないまま皇族になることに対し、国民の納得が得られないだろう。

 そもそも皇統に属する男系男子といえば源頼朝や平将門などの子孫も該当してしまい、数は多い。その全員を法律で皇族にしてしまうというのはあり得ないだろう。対象範囲を限定するにしても法律の立て付けは難しくなるのではないか。

 軸となる①②の2案をどう考えるか。私が首相在任中、いわゆる「女性宮家」の創設を検討し論点整理まで行った。①案も同じ女性宮家の創設といえる。

 しかし、私の政権下で議論した女性宮家案は、女性皇族と結婚した配偶者も生まれた子も皇族になるという考え方だったのに対し、①案では配偶者と子は一般国民のままだという。つまり、憲法第1章(「天皇」)と第3章(「国民の権利及び義務」)がぶつかる家庭になってしまうということだ。

 女性皇族は戸籍がなく、投票権はない。言論や表現の自由が制限され、政治的発言やSNSの発信もできない。しかし、その夫と子は言論や表現の自由、職業選択の自由などが認められ、SNSを活用していいし、政治的発言も自由だ。

 もちろん投票権(子は成人してから)だけでなく、被選挙権もあり、選挙に立候補できる。政治団体や新党、宗教も立ち上げることができてしまう。あらゆることが制限される皇族とあらゆる自由が認められる国民がいる家族が成り立つとは思えない。

 この問題について報告書では、徳川第14代将軍家茂と皇女和宮の婚姻を持ちだし、和宮が婚姻後も皇族のままだったが、家茂が皇族となることはなかったことから「皇室の歴史に整合的」としている。しかし、江戸時代と現行憲法下の婚姻は全く違い、同列に議論することはできない。

 ②案については憲法14条に違反しているとの指摘が多い。14条は、全ての国民が法の下に平等とし、「人種、信条、性別、社会的身分又(また)は門地」により差別されないとうたっている。②案のように旧宮家だけが皇族になれるということになれば、門地による差別となる。①②の両案とも憲法に対する深い洞察が全く感じられないのだ。

国民の支持を得られない

 そもそも旧宮家が民間となったのは約75年前。報告書は、憲法施行後約5カ月間、いわゆる「旧11宮家」の皇族男子が皇位継承資格を有していたと正当性を主張するが、既に長い年月が経過してしまっている。

 皇室が国民に尊敬されるのは、お子様のころから姿を見続けて親近感がわき、成長して公務をつとめられる姿に尊崇の念を持つというプロセスがあるからこそだろう。

 長く一般国民として自分たちと同じように暮らしていた方を皇室の養子となったからといって、いきなり皇族として敬えというのは難しいのではないか。

 幼いうちに養子にして、皇族として育てればいいという指摘もある。そのような選択を否定はしないが、その場合も憲法上の疑義を払拭(ふっしょく)する必要があるだろう。憲法違反が疑われる制度では、国民の支持は得られない。

 また、②案は、養子で皇族に復帰した本人は皇位継承資格を持たないとしているが、お子様が生まれた場合の言及はない。しかし、これは重要な視点だ。安定的な皇位継承が最大の課題であり、その観点から言えばお子様に皇位継承資格があるかどうかの議論は避けられない。本来ならば不可分であるはずの皇位継承の議論を切り離してしまった分、不十分な制度設計になってしまっている。

 前稿<皇位継承議論を封印するな 危機感がない政府の報告書>でも指摘したことだが、皇位継承の議論を先送りすればするほど、その間に女性皇族が減少して女性宮家の創設が難しくなり、皇位を安定的に継承するための選択肢が狭まってしまう。

 男系男子の維持を主張する人たちは、養子で皇籍入りした方のお子様に皇位継承資格を持たせるという案を後出しで主張するかもしれない。ただ、その場合でも憲法上の疑義などの問題を克服しなければならない。

上がった皇族の結婚のハードル

 もう一つ指摘したいことがある。それは「配偶者問題」だ。秋篠宮家の長女眞子さんが昨年10月に結婚した小室圭さんやその家族を巡り、報道合戦が過熱して激しいバッシングが続いた。このことは皇族の結婚のハー…

この記事は有料記事です。

残り378文字(全文2578文字)

野田佳彦

元首相

1957年生まれ。千葉県議を経て、93年衆院初当選。民進党幹事長、副財務相、財務相などを歴任。党最高顧問。衆院千葉4区、当選9回。立憲民主党。