ロシア兵を「残虐」にしたものはなにか ウクライナに学ぶ日本の安全保障

森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授
  • 文字
  • 印刷
ロシア軍に殺害された息子の葬儀で嘆く女性=ウクライナの首都キーウ近郊のブチャで2022年4月18日、AP
ロシア軍に殺害された息子の葬儀で嘆く女性=ウクライナの首都キーウ近郊のブチャで2022年4月18日、AP

 4月7日の国連総会で、ロシアを国連人権理事会から追放する決議が採択された。ロシアがウクライナで「重大かつ組織的な人権侵害」を行ったというのが追放の理由だ。決議は、賛成93カ国、反対24カ国で、棄権は58カ国にも上った。

 棄権した国は、一律にロシアへの配慮をみせたというわけではなく、ロシアの蛮行を裏付ける十分な証拠が集まっていないことを考慮したようだ。ただ、ウクライナから連日伝えられる目を覆うような破壊と殺りくの惨劇をみていれば、ロシアの戦争犯罪は明らかであり、人権侵害をする国を人権理事会から外すという判断を世界がしたことは、当然のことだと思う。

なぜ残虐行為をするかを考える

 しかし、考えておかなければならないのは、ロシア兵がなぜ残虐行為を繰り返しているのかという点だ。ウクライナに侵攻したロシア軍の多くは、徴用兵だと言われている。ロシアでは、18歳から27歳の男性が、 春と秋の2回に分けて徴兵される。原則として軍事訓練を受けるだけで、前線に送られることはないとされてきたが、その若者たちが、今回はそのまま前線に送り込まれているのだ。

 十分な戦闘訓練を受けていない彼らは、ウクライナでいきなり生命の危険にさらされた。ウクライナ政府が、国民に武器を与え、ゲリラ戦でロシア軍に挑んだからだ。ロシア兵の立場から見れば、市民の姿をしていても、誰がいつ攻撃してくるか分からない。だから住民を捕らえ、拷問をして、戦闘に加わっている住民が誰かを聞き出そうとする。それが分からなければ、住民を皆殺しにするのだ。

 私は、ロシア兵が、そもそも残虐な存在なのだとは思わない。残虐性は、戦争がもたらす一種の狂気なのだ。私が子供のころ、南方戦線から帰還した元日本兵の話を聞いたことがある。ジャングルのなかで、いつ敵が襲ってくるか分からないなか、考えていたことは、1秒でも先に人影を発見し、即座に引き金をひくことだったという。それを繰り返すうちに、敵を撃ち殺すことが、安堵(あんど)感を超えて快感に変わっていったという。その元日本兵は、残虐どころか、とても優しい人だった。

 実は、私の父は特攻隊員だった。ゼロ戦ではなく、蛟龍(こうりゅう)という5人乗りの潜水艦に乗っていて、特攻出撃の日も決まっていた。終戦が2週間遅ければ、父の命はなかった。

 その父は当時、大学生だった。それが海軍予備学生として召集され、そのまま特攻を命じられたのだ。特攻は、敵軍からみれば、おそろしい残虐行為だ。しかし、重要なことは、特攻を命じられた者の大部分が職業軍人ではなく、父と同じように集められた一般の若者だったことだ。もちろん、父も残虐な人ではなかった。

本当に残虐なのはだれか

 ウクライナの戦争も、本当に残虐なのは、前線で残虐行為に及んでいるロシア兵ではなく、彼らを前線に送り込んでいる軍上層部、とりわけ独裁者として君臨しているプーチン大統領なのだ。

 だから私は、国連総会が採択すべき決議は、プーチン大統領を「テロリスト」と認定する…

この記事は有料記事です。

残り2019文字(全文3265文字)

森永卓郎

経済アナリスト、独協大学教授

1957年生まれ。日本専売公社、経済企画庁、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て独協大経済学部教授。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済。コメンテーターとしてテレビ番組に多数出演。著書に「年収300万円時代を生き抜く経済学」(光文社)など。