アイゼンハワーから遠いプーチン氏の「野心」

田中秀征・元経済企画庁長官
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プーチン氏を風刺した看板の前をウクライナの国旗を持って歩く人たち=ルーマニアの首都ブカレストで2022年4月30日、ロイター
プーチン氏を風刺した看板の前をウクライナの国旗を持って歩く人たち=ルーマニアの首都ブカレストで2022年4月30日、ロイター

 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻2カ月を経て、ますます悪魔的指導者と化している。今後の展開は予測しがたいが、ただ決して彼の思惑通りにはならないと信じている。

 彼の邪悪さは、ヒトラーと同質のものだが、現代の兵器、通信、運輸、貿易などの驚異的な発達によって、プーチン氏の人類に対する破壊力はヒトラーのそれを上回っている。

プーチン氏の非道を許せば未来はない

 現在、報道がロシア寄りに規制されている国を除けば、世界の人々は一体となってロシアに対抗しウクライナを支援しつつある。こんなことは歴史上初めてだろう。もし、このままプーチン・ロシアの非道の進撃を許せば、人類に明るい展望は開けないと思い詰めているからだろう。

 それにしても、この20年ほどの間に、世界の有力国のリーダーまでが危険な野心家によって占められつつあるように見えるのは、どういうわけか。目に見えて政治指導者の劣化が加速している。

 悪魔的なプーチン氏を見て、私は学生時代に尊敬していた米国の第34代大統領のアイゼンハワーをしきりに思い浮かべるようになった。

温かさと正しさ

 アイゼンハワーは、周知のように第二次世界大戦を連合国軍最高司令官として勝利に導き、戦後、推されて大統領選に出馬し、当選した。折から黄金期を迎えていた1950年代の米国の頂点に立ち、持ち前の誠実さと温かさで米国だけでなく広く世界から敬愛された。

 彼の真骨頂は、前任のトルーマン大統領の日本への原爆投下に反対したことであろう。退任後の回想録でも「日本はすでに敗れているのだから原爆投下は全く不必要だった」と記している。そして、軍人出身でありながら米国の軍産複合体化に警告を発した退任演説も忘れられない。

 子供心にトルーマンの冷たさを感じていた私には、アイゼンハワーがとても温かく正しい人に感じられた。

 トルーマンが原爆投下を決断し、アイゼンハワーがそれに反対したのは、つまるところ両者の志や性格の決定的な違いによるものだ。内に人に対する温かさを秘めるアイゼンハワーは、常に人的被害を最小限にすることを考えて決断したのである。

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田中秀征

元経済企画庁長官

1940年長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部卒業。83年衆議院議員初当選。93年6月に新党さきがけを結成し代表代行に就任。細川護熙政権の首相特別補佐。第1次橋本龍太郎内閣で経済企画庁長官などを歴任。福山大学教授を30年務め、現在、福山大学客員教授、さきがけ新塾塾長。主な著書に「日本リベラルと石橋湛山――いま政治が必要としていること」(講談社)、「判断力と決断力――リーダーの資質を問う」(ダイヤモンド社)、「自民党本流と保守本流」(講談社)、「平成史への証言」(朝日新聞社)。