
2022年度開始から1カ月もたたずに、補正予算案の編成が決まった。去る4月26日、岸田文雄首相は記者会見で物価高騰に対する総合緊急対策を発表した。補正予算案はこの対策の財源を裏付けるためであるが、従来になく矛盾が多い。
参院選対策の補正予算案
報道(「毎日新聞」22年4月26日)などによれば、総合緊急対策に係る国費負担は総額6.2兆円であり、その内訳は、①原油価格高騰対策1.5兆円②エネルギー・原材料・食料の安定供給0.5兆円(電気自動車などの支援、国産小麦などへの切り替え)③中小企業対策1.3兆円(価格転嫁のための支援、無利子・無担保融資の延長)④生活困窮者への支援1.3兆円(低所得の子育て世帯に子ども1人当たり5万円給付、自治体が生活困窮者支援などに使う地方創生臨時交付金の拡充)――となっている。これらのうち一般会計の負担は、予備費1.5兆円と新たな補正予算案2.7兆円となっており、残りは財政投融資である。
補正予算は毎年当然のように編成されているが、それにしても、年度開始早々は異例である。20年度は、19年度末より拡大した新型コロナウイルス感染症に対応するために、補正予算が4月に編成されたが、今回そうした必要性があるとは思えない。
22年度当初予算にはコロナ対策のための予備費5兆円と通常の予備費5000億円が計上されている。今回は「緊急」なのだから、迅速に使える予備費で対応するのが自然である。実際に4月28日、政府は予備費のうち1.5兆円を支出することを閣議決定している<※1>。
予備費の使用は国会で事前に議決しないので、予算の民主的統制の観点から問題はあるものの、これまで政府は当然のように予備費を活用してきた。今さら国会による統制が必要であるといった説明は通らないだろう。
今回の補正予算案には、支出する分を埋め合わせるために、予備費を1.5兆円積み増すというが、それこそ国会軽視だ。既存の予備費では足りない状況になったときに、追加の必要性を説明した上で補正予算を編成するのが筋である。
今般の補正予算案の経緯を振り返ると、22年度予算の予備費で賄おうとした自民党と大型の補正予算編成を主張した公明党が対立。最終的に、予備費積み増しが中心の2.7兆円の「小規模」な補正予算編成という「折衷案」で決着したという(「毎日新聞」2022年4月27日)。全額当初の予備費で対応できる金額であり、補正予算を編成する理由がわからない。
補正予算とは、バナナのたたき売りのようにして決めるものなのか。要するに、今回の補正の真の理由は、7月に予定されている参院選を控え、世の中にアピールするためのものであり、公明党のステークホルダーが選挙での支援の見返りを求めたからではないか。そこに、矛盾の根源がある。
なぜ補正予算をこのように使うのか。こうした補正予算の活用は諸外国ではあまり聞かない。当初予算では、それなりに厳しいシーリング(歳出の上限値)が設定されること、その大層は年金や医療などの義務的経費が占めることなどから、政治が裁量的に使える歳出が少ない。
しかし、補正予算は違う。生活保護などの義務的経費が当初の見積もりより増えたため補正予算で追加する場合もあるが、年度当初の補正予算にはそのような事情はない。今回盛り込まれた地方創生臨時交付金は、地方自治体が自由に使えるので、それぞれの地方で選挙対策として使える。
また、こうした補正予算は財務省にとってもメリットがある。財務省も政治に協力していると恩を売ることができるからだ(今回の補正予算案はさすがにそうとは言えないかもしれないが)。
見せかけの弱者対策
今回の補正予算案が選挙対策と考えられるもう一つの理由がある。確かに、コロナ下が継続し生活が苦しくなっている人々は多く、また昨今のガソリンなどの価格高騰はそうした人々に打撃を与えている。
しかし、そもそも政府がこれまで非正規や生活困窮者などに対して十分な対策を講じてきたとは思えない。例えば、シングルマザーなど、子どもを抱えている一人親世帯の貧困率を見よう(図1参照)。
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