核の脅しのなかで 「ロシアは失敗」と中国に思わせる

渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員
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父親の写真を手に、対ドイツ戦勝記念日の式典に出席したロシアのプーチン大統領=モスクワで2022年5月9日、ロイター
父親の写真を手に、対ドイツ戦勝記念日の式典に出席したロシアのプーチン大統領=モスクワで2022年5月9日、ロイター

 今回の日米首脳会談の重要な柱は、米国の日本に対する核の傘(拡大抑止)について、両首脳が共通の言葉で確認することだ。

 ロシアはウクライナ侵攻の中で、核兵器使用の脅しをかけており、広島・長崎以後、使われてこなかった核兵器が使われる事態が懸念されている。これまでは、まがりなりにも、ロシアを含む世界の核兵器の使用は抑止されてきた。

 東アジアにおいては、日本が米国の核の傘について疑いを持つような事態は起きていないが、日本でも核シェアリング(核共有)が議論になっており、台湾有事を想定すれば、今こそ、日米の確認作業をして共通の抑止力を整える時期といえる。

日米は共通の言葉で拡大抑止確認を

 日米両国の安全保障専門家の間では、当初、岸田文雄政権とバイデン米政権は核不拡散や核廃絶を重視しすぎて、既存の核抑止の信頼性を落としかねないという懸念が持たれていた。

 今、懸念されるロシアの核兵器使用は、核廃絶の理念のスローガンを唱えるだけではとめられない。力の均衡による抑止が必要だ。既存の核抑止体制も核不拡散体制も維持するという現実的な組み合わせが必要となる。

 核抑止が崩れて、核兵器が使用されれば、多くの国家が核保有に走り、核不拡散体制も崩れてしまう。日本にとっても、核兵器が使用されない限り、米国の核の傘への依存と核不拡散、核廃絶の理念は矛盾しない。現実と理想、つまり抑止と不拡散(および核廃絶)のバランスをとることが重要であり、広島を地盤とする岸田首相もそのように考えているのではないか。

ロシアに得をさせない

 台湾問題については、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認することになるだろう。もし、今回のロシアのウクライナ侵攻が失敗に終われば、中国の台湾統一への軍事的なハードルも上がることになるはずだ。

 米国はウクライナに対して、兵器とインテリジェンス情報を供与し、ロシアへの経済制裁という協力も行っている。こうした対応は、今後、他の国家に対して、侵略行為のハードルを高くすることが目的で、地政学上の最大のライバルである中国が念頭にある。おそらく中国もそれを理解しているはずだ。

 ロシアのウクライナ侵攻のような、力による一方的な現状変更をしたプレーヤーは結果的には得をしないという事実を作らないといけない。中国はロシアへの経済制裁には参加しない姿勢をとっているが、ロシアへの軍事援助も行わず、状況を注視している。

 国際社会からの批判や、経済制裁により、ロシアの侵攻が利益を得ないという結末を作り出し、力による一方的な現状変更は割に合わない行為だと世界に思わせることが大事だ。このような議論を、中国の目と鼻の先にある日本で日米両首脳がすることは…

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渡部恒雄

笹川平和財団上席研究員

1963年生まれ。米ニュースクール大修士課程修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員などを経て現職。著書に「2021年以後の世界秩序」など。