宮家邦彦の「公開情報深読み」

米国は台湾政策を変えたのか 米国務省ファクトシートを「深読み」する

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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軍事訓練に参加する予備役兵ら=台湾北部・新北市で2022年3月12日(総統府提供)
軍事訓練に参加する予備役兵ら=台湾北部・新北市で2022年3月12日(総統府提供)

 2月以来、内外メディアの関心はウクライナでの戦闘にくぎ付けだが、この「どさくさ」に紛れるがごとく、米国は台湾の取り扱いを、劇的ではないにせよ、微妙かつ確実に変え始めたようだ。

 米台関係は日本の安全保障にも直結する。今回の「深読み」は5月5日に更新された米国務省ウェブサイトの台湾関係ファクトシートを取り上げる。

表現が消えた意味を考える

 早速日本では一部中国専門家が反応した。いわく、「米国は『一つの中国、一つの台湾』政策へと明確に変更しており、将来、『台湾独立』を支持する方向で動く公算が大きい」とか、米国が「場合によっては『中国=中華民国』として、『一つの中国』を認める可能性がある」というのだ。そうかなあ、ちょっと違うような気がする。

 これら識者たちは根拠として、5月5日の更新で「台湾は中国の一部分(Taiwan is part of China)」「アメリカは台湾独立を支持しない(The United States does not support Taiwan independence)」といった表現が「消えた」ことを挙げた。おいおい、それだけで「一つの中国=中華民国を認める可能性がある」と断ずるのは、少々「浅読み」ではないかね。

 米国務省は台湾に限らず、世界各国・地域との関係を「Bilateral Relations Fact Sheet」として公表している。2018年8月31日以来4年ぶりで更新された22年版は6項目からなるが、全体では約900語程度で前回より200語ほど長くなっているものの、文章の構成自体はあまり大きく変わっていない。

 18年版と22年版はどう違うのか。米国の台湾政策はいかに変わりつつ「ある」のか、「ない」のか、「ある」とすればどの程度の変化なのか。残念ながら、この点を詳しく「深読み」した記事や評論は今のところ見当たらない。されば、ここに筆者の見立てを書こう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

18年版と22年版の違い

 まずは具体的記述内容の変化から。22年版は、①米台関係、②米台の代表部、③経済関係、④科学技術協力、⑤人と人の絆、⑥国際社会における台湾の役割――の6部からなるが、最も大きく変わったのは①の米台関係部分だ。中でも、18年版にあった「台湾は中国の一部分」「アメリカは台湾独立を支持しない」なる表現が22年版に記載されていないことは注目に値する。

 さらに22年版では、18年版にはなかった「六つの保証」への言及もある。「六つの保証」とは1982年に当時のレーガン政権が台湾に対し行ったもので、最近機密指定が解除されている。具体的には次の通りだ。いずれも、米国が断交後も台湾を支える姿勢を示したものと理解されている。

 ①米国は台湾への武器売却終了日の設定に同意していない ②米国は台湾への武器売却について中国と協議することに同意していない ③米国は台北と北京の間の仲介役を務めない ④米国は台湾関係法の改正に同意していない ⑤米国は台湾の主権に関する立場を変えていない ⑥米国は台湾に対し、中国との交渉を開始するよう圧力をかけない

 他方、こうした表現ぶりの変更だけを根拠に、米国の台湾政策が変わったと断ずるのはいかがなものか。5月10日の記者会見で国務省報道官は台湾に対する米国政府の「政策に変更はない」と明言している。

 今回の文書更新の意義を理解するには、両文書の相違点を正確に知ることから…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。