防衛費「2%」は目標ではない 抑止力とは静かに構築するもの

岩屋毅・元防衛相
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岩屋毅氏=内藤絵美撮影
岩屋毅氏=内藤絵美撮影

NATOに準じる必要はない

 国際情勢と日本を取り巻く安全保障環境の変化を見れば、防衛力の充実・強化は必要だ。しかし防衛費の編成は、数値目標が先にあって、そこに向かってとにかく買い足していくというような雑なやり方をしてはいけない。

 「何を」「どこに」「どのくらい」「なぜ」必要かを精査し、それを丁寧に説明をして理解を得ながら積み上げていく。そこで初めて必要額が出てくる。これまでもそうやってきたし、今後もそうでなければならないと思う。

 党が4月末に岸田文雄首相に手渡した提言では防衛費について「北大西洋条約機構(NATO)諸国の対国内総生産(GDP)比2%以上の目標も念頭に」と記したが、あくまでも「念頭に」であって、目標数値にはなっていない。

 NATOは集団安全保障の枠組みであり、加盟国が集団的自衛権を持ち寄って相互に安全を保障し合う体制だ。加盟国は欧州連合(EU)の国々とほぼ重なる。EUは加盟国に財政赤字はGDP比3%以内、公的債務残高は同60%以内に抑えるルールを課している。単一通貨ユーロの信用維持のために必要だからだ。NATOもEUも多国間体制のために約束事が必要だ。我が国とはよって立つところが違う。

 しかも欧州各国の中で日本のGDPを超える国はない。簡単に「2%」と言うが、5兆円が10兆円になるという話だ。ではあと5兆円をどこから持ってくるのか。それを何に使うのか。そこがはっきり説明できないままに、先に数値目標だけを持ってくるのは適切ではない。やみくもにNATOに準じる必要はない。

「金額ありき」の防衛力整備は不適切

 私は現在の「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」を策定した当時の防衛相だ。陸、海、空に加えて宇宙やサイバー、電磁波といった新領域で自衛隊の対処能力を強化する「多次元統合防衛力」を掲げ、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦を最新鋭ステルス戦闘機F35Bが発着できるように改修することや、地上発射型「12式地対艦誘導弾」を初の国産長射程ミサイルに改良することなど、防衛力の強化を進めた当事者だ。自衛隊は着実に実力をつけてきている。

 しかし、武力の行使は、努めて抑制的であり、かつ必要最小限度でなければならない。これが憲法の要請であり、戦後一貫した我が国の防衛政策の基本的な考え方だ。

 何が必要最小限かを評価するには、周囲の安全保障環境や軍事技術、科学技術の進展状況などを考えなければならないし、それは常時、丁寧に点検をしていかなければならないが、その基本的な考え方はこれからも崩すべきではない。そういう手順を省いて「金額ありき」というやり方はわが国の防衛力整備のあり方としてふさわしくない。

「反撃能力」保有明記は現実性欠く

 今回の党提言では相手国のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力を「反撃能力」と改称し、その保有を求めることも明記した。「敵基地」の概念自体が今や現実性を欠いた言葉であり、「反撃能力」と言い換えることは理解できる。

 しかし、わざわざ「反撃のための武器を持ちます」と振りかぶる必要もないのではないか。

 例えば改良を進めている12式地対艦誘導弾は、射程を1000キロ近くに伸ばして、航空機や艦船、また陸上からも撃てるようになる。私は潜水艦からも撃てるようにすべきだと言っている。日本列島は東西南北に各3000キロあるので、長い射程のミサイルは必要だ。射程1000キロのミサイルを持つということは、結果的にどういう意味を持つのか。周辺国はおのずと分かるはずだ。まずは国土防衛のためにそういう能力を整備する。しかし結果的にそれが対外的な抑止力につながっていく。こうした防衛力整備の進め方が適切であると私は思う。

 我が国がどうやって防衛を行うか。具体的な戦術は本来、相手には分からないようにするものだ。だからこそ静かに能力を積み上げていくことが大事であり、あとは「作戦」をどう作っておくかだ。今でも自衛隊にはケースごとの作戦が数多くある。日米間にもある。それを有していれば済むことだ。明示的にその内容を言ったり書いたりする必要はない。

「第2のウクライナ」化を防ぐのは

 党内議論でも「指揮統制機能に対する攻撃まですべきだ」という表現について、私は反対したが、結局は提言に書き込まれることに…

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岩屋毅

元防衛相

 1957年生まれ。大分県議を経て、90年衆院初当選。防衛政務官、副外相などを歴任。衆院大分3区。当選9回。自民党麻生派。