借金頼みの防衛費増と右への地滑り

井手英策・慶應義塾大学経済学部教授
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首相官邸に入る岸田文雄首相(左)=東京都千代田区で2022年6月2日、竹内幹撮影
首相官邸に入る岸田文雄首相(左)=東京都千代田区で2022年6月2日、竹内幹撮影

 岸田文雄首相が防衛関係費を「相当」に増額する方針を示した。詳細はこれからだが、自民党は対国内総生産(GDP)比で2%程度をめざすべきだ、とかねて主張していたし、立憲民主党や日本維新の会など、一部野党からも賛成の声があがっている。

目まぐるしい変化

 それにしても、ロシアのウクライナ侵攻後、なんと目まぐるしい変化だろう。報道を目にしながら、私は、2018年に公刊した『幸福の増税論』(岩波新書)という自著で示した問いかけを思い出していた。

 私は、同書でこう問うた。日本は1997年からの20年間で防衛予算がほとんど増えなかった一方で、中国は11.5倍に増大させている事実をどう考えるべきか。中国脅威論を騒ぎたて、軍拡に軍拡で対抗するのはおろかだ。だが、そうした「正論」をぶつけるだけで、本当にリベラルは右傾化の圧力に耐えられるのか、と。

 懸念はまさに現実になりつつある。一般会計における防衛関係費は2012年度まで減少を続けていた。だが、第2次安倍晋三内閣の誕生以降、トレンドは増大に転じ、22年度の当初予算では、約5.4兆円(米軍関係費等ふくむ)が計上された。

 ピーク時の予算が約5兆円だったこと、対GDP比でいえば、1%を下回る水準とされたことを考えれば、大きな変化には見えない。だが、本当にそうだろうか。

借金頼みの大盤振る舞い

 まず、21年度の補正予算で防衛関係費が約0.7兆円計上された。この補正と22年度予算は一体であり、政府も「16カ月予算」と位置づけているから、実質的には約6.1兆円の予算規模である。

 また、以上とは別の「目に見えない予算」が存在する。防衛装備品は、発注から納入まで、数年がかりとなることが多い。5年契約であれば、次年度に歳出されるのは総額の5分の1で、残り5分の4は次々年度以降に支出されることになる。

 以上を「後年度負担」と呼ぶ。22年度の新規後年度負担は、21年度補正とあわせ、約3兆円、これに前年度以前に決まっていた既定額が加わる。合計すると、一般会計の防衛関係費とほぼ同水準の後年度負担が存在していることとなる。

 現在の争点は、どのようなペースで一般会計の防衛関係予算を対GDP比2%に届かせるか、だ。最終的には、約10兆~11兆円の防衛関係費が目標であり、当面、次年度予算については、約7兆円が視野に入るとの発言が自民党から出ている。

 思い出してみれば、全国民に10万円を配った「特別定額給付金」の事業費が約13兆円だった。この程度の額なら、ちょっと借金すれば、実現できそうだ。実際、必要な財源は国債に頼ればよい、との声が与野党から公然とあがっている。

 私はこうした最近の動きに強い危機感をおぼえている。なぜなら、コロナ以降の財政の動きを容認すれば、玉突き的に民主主義が弱められていくからだ。

 すでにその兆候は見え始めている。私たちは、コロナ対策と称する、借金頼みの大盤振る舞いに慣れきってしまった。事実、中国やロシアの脅威をとなえれば、野党も含めて、借金による軍拡があっさりと容認される。「財政規律」は風前のともしびだ。

右への地…

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井手英策

慶應義塾大学経済学部教授

 1972年生まれ。東大大学院博士課程単位取得退学。日本銀行金融研究所、横浜国大准教授などを経て2014年から現職。専門は財政社会学。15年、「経済の時代の終焉(しゅうえん)」(岩波書店)で大佛次郎論壇賞を受賞。16年度慶応義塾賞を受賞。著書に「18歳からの格差論」(東洋経済新報社)、「分断社会を終わらせる」(筑摩書房)、「財政から読みとく日本社会」(岩波書店)、「幸福の増税論」(岩波書店)など。近著に「どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命」(小学館)。